オレの可愛い花 (「菜の花」章吾side)

 学校創立以来、初の女性生徒会長『東条麗華』の名前は有名だ。

 才色兼備だの何だのと騒がれているが、オレは東条の隠れた部分を知っている。

 想像以上に努力家なことも、とんでもなく気が強いことも、怒らせたらスッゲー怖ぇことも、1つ下の妹をメチャメチャ可愛がっていることも。

 そして……オレはその妹、菜摘ちゃんに恋をした。

 

 クラブの部長職を後輩に譲り、3年に進級して、さぁ今度は受験勉強だぞ! ってときに「お付き合いしてください」なんて言おうとしてるオレ。

 何やってんだ!? って自分でも思うんだけど……菜摘ちゃんを好きになったのは1年ほど前。東条と一緒に登校してくる姿を見て「あの子は誰?」というのが始まりで、ずっと気持ちを温めていた。

 我ながら健気に思う。うん。

 で、「受験勉強を始める前に、どうしても彼女に告白したい!」という気持ちが抑えきれなくなってきて、菜摘ちゃん宛てに手紙を書いた。

 もしかしたら東条に阻止されるかも、なんて不安がある。菜摘ちゃんにフられる可能性だってある。

 でもオレは書かずにはいられなかった。

 菜摘ちゃんが他のヤツの彼女になるなんて、……そんなの嫌だからな!

 簡潔で素っ気も無い文章しか書けなかったけど、それが精一杯だった。翌朝、オレは早めに登校して……菜摘ちゃんの靴箱に手紙を入れた。

 どうか東条に取り上げられませんように、と願いながら……

 

 

 結果、菜摘ちゃんにOKの返事をもらえて、オレは最高に嬉しかった。

 案の定(?)東条から呼び出されたが、最大の難関もクリアした。 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 ある日の昼休み。オレは、いつものメンバーと廊下を歩いていた。

 

「なぁお前、麗華嬢の妹と付き合ってんだって?」

「まぁ……(こんな場所で話題にするな!)」

「へぇ? 麗華さん狙いじゃなかったのかよ」

―― なんで東条の名前が出てくるんだ!?

「なぁに言ってんだよ! 麗華さん狙いに決まってんじゃん、な♪」

―― ウルセーなぁ……

「あ、そっか。『将を射んと欲すれば、馬を』ってヤツか?」

「……まぁな(いい加減、バカらしくなってきたぜ)」

「な〜んだ、やっぱそうか〜〜」

―― なんだよ勝手に納得しやがって、コイツらは……

 

 こんな場所で言うのも嫌だったから「ほれ、屋上行くぞ」と奴らを連れて行き、そこで宣言した。

「ごちゃごちゃとウルセーんだよ! オレは東条菜摘が好きなんだッ!」

 奴らは心底ビックリしたようで……それからは大騒ぎだった。

 聞かれたことには何でも答えたが、「どこに惚れたんだよ〜」という質問には断固として黙秘権を使った。

 

 菜摘の良い所なんて誰が教えてやるか。ライバルが増えると困るんだよ!

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 最近、菜摘ちゃんの元気がない。聞いてみても、「何もないです……」の返事が返ってくるだけ。

 気になっていたけど、その理由までは深く考えていなかった。

 

「ちょっとオレん家に寄ってくんない? 渡したいものがあるからさ」

 いつもの帰り道。そう言って、オレの家に寄ってもらって……菜摘ちゃんを抱いた。

 菜摘ちゃんは泣いた。だけど初めての子は皆そうなのかな? と思っていた。

 有頂天になっていたオレは、肝心なことを見逃していたんだ……

 

 翌日から菜摘ちゃんに全く会えなくなった。意図的に避けられているようで……オレはめちゃめちゃ焦った。

 タイミングよく(?)東条から呼び出され、えらい剣幕で怒鳴られてしまったが―― 菜摘ちゃんの部屋へ行くことを許可してもらい、やっと彼女と会うことができた。

 オレは久しぶりに菜摘ちゃんと会えるのが嬉しくて、単純に喜んだ。

 だけど彼女の胸の内を聞いているうちに、自分のバカさ加減に呆れてきて……自身を殴りたくなってきた。

 涙を流しながら話す様子が痛々しい。そんな気持ちで身を任せてくれていたのかと思うと、胸が詰まってくる。 

 気付いてやれなかったオレって、本当にバカだよな。

 でももう、そんな辛くて悲しい思いはさせない。

 

 大好きだ菜摘!

 オレの可愛い可愛い花……

 

 

― End.―

2008.11.20. up.
章吾は見た目と違ってロマンチストです。めちゃめちゃ甘い台詞も、平気で言います。

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