あの日…

 小学4年生の夏に、祖母が亡くなった。

 オレと弟は両親に連れられて、大阪にある父親の実家へ行った。 

 母方の祖父母も父方の祖父も、オレが生まれる前に亡くなっていたから……オレは『身内の不幸』ってヤツを、初めて経験した。

 布団に寝かされている祖母は、本当に眠っているようにしか見えなかった。

 だけどオレが何度呼んでも返事をしてくれなくて……触れた手は冷たくて……。

 親から聞かされても、新幹線に乗せられても、なかなか信じることができなかったオレに、「事実から目を逸らすんじゃない!」と……その冷たい手が教えてくれた。

 

 現実を認識させられて、ようやく祖母の死を受け止めることができたけれど……それはこの上もなく辛くて、寂しくて、悲しい感情を伴うもので……

 人前で泣くのが嫌だったオレは、祖母の家を飛び出した。

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 独りで泣ける場所を探していたオレは、誰も居ない公園を見つけた。

 いや……ベンチに幼稚園くらいの可愛い女の子が1人、空っぽの鳥かごを胸に抱きながら空を見上げて座っている。

―― 何だ?

 不思議に思ったオレは、その子に近づいて「何してんだ?」と聞いてみた。 

 

「ピーちゃん待ってんねん」

「ピーちゃん、って……鳥か?」

「うん、カナリヤのピーちゃん」

「そこから逃げたのか?」

「ううん。お散歩行ってんねん」

「散歩!?」

「けど、まだ帰ってけぇへん……」

「オマエ、バカだろ!」

「なんで!?」

「そんなの帰ってくるワケないじゃんか!」 (オレのばあちゃんは……)

「迷子になってるかもしれんやん?」

「そこから出ちまったら、もう戻って来ないんだよ!」 (もう居ない!)

「ぅ………」

「そんなの待ってるなんて、ぜってーバカだ!!」 (もう会えないんだぞ!!)

 

 言ってしまってハッと気付いたときにはもう、その子は涙を流していた。

 

「バカちゃうもん……バカとちゃうもん…」

「お、い……」

「ピーちゃ、戻ってくるもん……ピーちゃ……うわぁぁ―」

 本格的に泣き出してしまった女の子を、オレは慰めることもできなくて……その場から逃げるように走り去った。

 

 

「あかねちゃん、早よ帰ってこなアカンやないの!」

「……おかあちゃんっ! ピーちゃんが―」

 

 後方から聞こえてきた声に安堵しながらも、オレは自己嫌悪に陥っていた。

―― あんな小さくて可愛い子に八つ当たりして、泣かせちまった……

 

 ごめんな。

 もし、また逢うことがあったら……今度は絶対に優しくしてやるからな。

 

 

― End.―

2010.01.27. up.

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