思いがけないプロポーズ

 あれから『あいつ』と目が合うたびに、ニコッ♪と笑いかけられるようになった。 

 ドキドキしている私をよそに、いつもの冗談や、からかいの言葉が続く。

 

 『あいつ』の言ってることって、どこまで冗談? どこから本気?

 それとも……全部、冗談?

 わかんないよ。

 

 どうにかこうにか返事をしているけど……

―― これで合ってるのかなぁ。変じゃない?

 

 なんで私は、こんなにドキドキしているんだろう。

 なんで『あいつ』のことが、こんなに気になるんだろう。

 このドキドキ、『あいつ』に気づかれたらどうしよう……

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 桜祭も無事に終わり、ようやく通常授業に戻った11月の、ある日の放課後。

 部活に行こうとしていた私の所に、『あいつ』がやって来た。

―― どうしたんだろ……

 

「野々村って、幼稚園の先生になりたいんだって?」

「そうだけど?」

 なんでそんなこと聞くんだろうと、いぶかしく思いながらも答えると

「いい話があるんだぜ〜」

「何なの?」

 ちょっとドキドキしてきた。

「オレんち、幼稚園やってるんだけどな。おまえ、ウチに来ねえ?」

「はい?」

「大学を卒業したらウチの幼稚園で働かねぇか、って言ってんの。そんでオレと一緒になって、ゆくゆくは園長先生! ……コレってお得じゃね?」

―― どうゆうこと?

「えっと……よくわかんないんだけど…?」

「だ・か・ら〜 オレんちに来たら、就職もできるし〜 一生安泰だ、ってことだよ! な、お得だろ? こんなヤツ、他にいねぇぞ?」

「『お得、お得』って、安売りしてんじゃないわよ!」

「はぁ? おまえ、オレの言ってること解ってる?」

「え? あんたの家に行って、就職して……一緒になる? 一生安泰って、……えぇっと、それってもしかして……プロポーズ!?」

 

 ドキドキが止まらない。

 

「それ以外にあるか?」

―― でも、なんで?

「私は、ちゃんと私のことを好きだって言ってくれる人と結婚したい。そんなの、他の子でも……私でなくてもいいんじゃないの?」

―― なんか泣きそう。

「オレ、おまえのこと好きだけど?」

「うそッ! 信じらんない。いつも私のこと、目の敵にしてたじゃない!」

「目の敵って……はぁ…。オレは1年の桜祭のときから、おまえのことが気になってたんだよ。2年で同じクラスになったときは、ガッツポーズ作って叫んだくらいなんだぜ?」

―― ホント、なの?

「ま、いろいろやっちまったのも確かだけどな。それもこれも、オレのことを印象付けようと思ってのことだし…。オレのこと、気になっただろ? 作戦は成功したようだな♪」

「う〜〜〜〜」

「そう唸るな、って。で、おまえの返事は?」

「そんな冗談みたいに言わないで、真面目に言ってよ! でないと返事なんてしないんだからッ」

「やっぱ、そう来るか……」

 『あいつ』はポリポリと頭を掻くと、静かに目を閉じて……再び開いたときには、真剣な顔になっていた。

「野々村真紀、好きだ。オレと結婚してくれ。オレの実家と将来をおまえに預ける。一緒に生きて行ってほしい。」

 『あいつ』に見つめられて言われると―― 息ができないほど胸がドキドキして、頭の中が真っ白になってしまって―― 気が付いたら『あいつ』の胸が目の前にあった。

 抱きしめられていた。

 

「おいおい、返事する前に倒れられたら困るじゃんかよ〜〜」

 そんな余裕ありありの顔して言わないでよ!

「で、おまえの返事は?」

 ニッコリと優しい目をして見つめないでよ!

「……うん、私も杉野が好き。よろしくお願いします」

―― あーあ、言っちゃった……

 

 

 

 

 あれ? な〜んか大事なことを忘れてるような…?

 

 

 

「ねえ杉野。普通は『結婚してください』の前に『お付き合いしてください』でしょ?
私たちは『お付き合い』なんてしてないし、デートだって……したことないよ?」

「『デート』なら、2人で買い物に行ったじゃん」

「買い物って……アレは桜祭のときの買出しじゃないの。クラスのみんなの飲み物を買いにコンビニまで行っただけだし、そんなの…」

「でも2人きり、だったぞ〜」

「杉野が『お菓子も買おうぜ♪』って言い出して勝手にカゴん中に入れ始めちゃって……私、めちゃめちゃ疲れたんですけど?」

「少しでも長く真紀と一緒に居たかったから、あんなことをやっちまったんだよ。
悪かったな」

―― いま、杉野が私のことを『真紀』って言った…?

 

「……それに私たち、手を繋いだこともないんですけど?」

「あ? フォークダンスのときに、繋いだだろ?」

「このクラスの男子みんなと手を繋いだんだよ? 杉野だけじゃないんだからね」

「そうだった! あいつら〜〜〜……よし! 今日から真紀は、オレと手を繋いで一緒に帰ること。OK? ってか、OKしか受け付けねぇからな」

「横暴反対! 私、部活あるんだよ? 杉野だって……」

「早く終わった方が待つ。それでいいだろ? オレたち今日から付き合おうぜ♪」

 

 だからそんな笑顔を見せられたら、心臓に悪いってばー! 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 鉄平の作戦どおり(?) 私たちは付き合うことになった。

 そして今、2人で仲良く(?)手を繋いで下校している。

 他愛の無い話をしながらも、心の中では「私のどこが好き?」とか好きになったキッカケとか……聞きたいことばかりが、ぐるぐると頭の中で回っている。

―― まぁそのうち、じっくり聞かせてもらうけどね♪

 

2008.00.00. up.

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