「今日から付き合おうぜ♪」
と言われた次の日曜日にはもう、鉄平の家族に会っちゃった。
『会った』じゃなくて『会っちゃった』の……
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
「忘れモンしたから、ちょっとウチに寄ってくんねぇか?」
初めてのデート。
鉄平は待ち合わせ場所の駅に来るなり、そう言った。
「いま来たトコなのに!? わざわざ取りに帰らなきゃなんないくらい大事な物なの?」
「とっても大事なモンなんだよ。初めてのデートで、彼女を待たせるのはイヤだったからさ〜 急いで来たら、持ってくんの忘れちまって…」
ポリポリと頭を掻きながら言う鉄平。
―― あ、照れてる〜
何気ないところで鉄平のクセに気付くのって、なんだか嬉しい。
些細なことだけど、やっぱ私たちって『彼氏と彼女』なんだな〜って実感するんだけど……
「ねぇ鉄平。そんな大事な物、家を出るときに気付かなかったの? 途中で気付いて取りに帰ったとしても、鉄平の足なら充分間に合うでしょ?」
「今さっき、真紀の顔を見て気付いたんだよ」
「なんで私の顔なのよ」
眉間に皺を寄せて思わず両頬に手を当てる私。
その様子を見て、鉄平が笑う。
「いいじゃんか♪ さ、早く行こうぜ」
いきなり手を握られて戸惑う間もなく、歩き出した鉄平に引きずられて行く。
私の家と鉄平の家は、同じ駅を挟んで反対側の位置にある。通学区が違うから、公立の小学校や中学校は全く別の学校で……だから鉄平のこと、今まで知らなかった。
私は駅の北側で徒歩10分、鉄平は駅の南側で徒歩2分。
「駅から近いと、便利でいいね〜」
「『駅から歩いて2分』てゆうのもウチの幼稚園のウリなんだぜ。働く親にとっちゃあ、有り難いと思うよ?」
「他所へ働きに行く人、他所からココに働きに来る人、両方に便利なんだね」
「そうゆうこと♪」
「働く親の立場になって考えてるんだ…」
「ほら、着いたぞ」
「もう!?」
あっという間の2分間!
そこは表が幼稚園で、裏が自宅になっていた。
「ちょっとココで待っててくれよな」
鉄平の姿が自宅玄関へと消えていくのを見送ったあと、周りを見回してみる。
「『杉の子幼稚園』てゆうんだ。へぇ〜……遊具が可愛いなぁ…」
私は、こういった遊具や園庭にも興味がある。
―― 平日は、園児たちで賑やかなんだろな〜
私はいろんな想像を膨らませながら、鉄平が戻ってくるのを待っていた。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
「兄貴の彼女!?」
いきなり背後から野太い声が聞こえて、我に返る。
「イイね〜〜♪」
すると今度は、少しハスキーな声が聞こえた。
もしかして…? と思って振り向くと、そこには予想通りというか何というか……鉄平の弟たちであろう人物が居た。
話には聞いていたけど、本人たちに会うのは初めて。
二卵性の双子で、同じ桜花爛漫学園 高等部スポーツ科1年生なんだって♪
鉄平は178cmだけど、この2人は……たぶん180cm超えてると思う。
それにスポーツしてるから筋肉が付いてて体格もイイし、余計に大きく見える。
「はじめまして、野々村真紀です」
挨拶をすると
「俺は恭平(きょうへい)っていいます。こんなトコで立ち話するのも何だからさ、どうぞどうぞ〜」
たぶん柔道やってる方の弟が、私の手を引っ張る。
「そうだよ。兄貴の彼女は大歓迎だからさ〜 あ、と…僕は潤平(じゅんぺい)っていいます。よろしく〜」
たぶんサッカーやってる方の弟が、私の背中を押す。
―― なんでこんなに強引なの!?
「いえ。ここで待つように言われてるし…」
キツク断ったらマズイかな? なんてことを思いながら、やんわりと断ったのに
「そんなこと言わないで、さぁ」
「せっかく来たんだし、お茶でも飲んでってくださいよ♪」
「え、でも……ちょっ…」
―― 人の話を聞けー!
そんな2人に前後を挟まれ、あれよあれよという間に玄関。そして廊下を進んでいって……
―― 鉄平ったら何やってんのよ、早く戻ってきて何とかしなさいよー!
私の心の声も空しく、とうとうリビングまで連れてこられてしまった。
そこには、ソファで寛いでいる一組の夫婦が…!!
―― 目が合っちゃった! どうしよう〜〜
この時ほど、傍に鉄平が居てほしいと思ったことはなかった。