初めてのデートだから、普段よりはオシャレした。
下は細めのジーンズで、上はフワッとした素材のモノにして。少しは可愛く見えるように工夫したんだけど……
鉄平の家族に会うって分かってたら、ちゃんとスカート穿いてきたのに〜〜!
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
「あら? どちらさま?」
鉄平のお母さんに、声をかけられた。
「コチラは兄貴の彼女だよ♪ ……さ、どうぞコッチに座ってください。今、お茶を淹れますからね〜」
なぜか嬉しそうな顔で潤平くんが応え、そして私に向かって席を勧めてくれた。
「はじめまして。野々村真紀です…」
初めて彼の家に上がった私は、心細くてたまらなかったのに両親に会っちゃって。緊張しすぎて笑顔も引きつっていたけど、それでも頑張って挨拶をした。
それなのに……漸く現れた鉄平の言葉で、私はキレた。
「おまえ、こんなトコで何やってんだ? 門のところで待ってたんじゃ…」
「何やってんだ、じゃないでしょ!? なんでもっと早く戻ってこないのよ!!」
涙を浮かべて鉄平に食って掛かる私に、家族の皆さんはさぞビックリしただろう。けどこの時の私は自分のことで精一杯で、周りの人のことまで考えられなかった。
「待たせてごめんな? ちょうどいいサイズのペーパーバッグが見つからなくて、探してたんだ。で……なんでオレの彼女がココに居るんだ?」
鉄平は私の肩に両手を置いて、じっと目を見て話してくれた。それから弟たちの方を睨んで言った。
「だってさぁ……外で待たせるのって、かわいそうじゃんか」(恭平)
「『女の子には優しく』しなきゃ、ねぇ…」(潤平)
「だから、お前たちが連れて入ったのか? 親父やお袋が居る、ココに?」
「「うん」」
「お前らなぁ……初めてのデートで、いきなり彼女を両親に会わせるか?」
「「えぇッ! 初めてなの!?」」
皆の方を向いているのは鉄平で、私はリビングの入り口に向いている状態。だから私からは皆の顔は見えない。
でも……見えなくてホントに良かったと思う。この人たちが一体どんな表情をしてるのか、想像するだけで顔が赤くなってくるもの。
「ついでに言うと、オレ達は付き合って4日目だ。でももう、プロポーズしたんだぜ?」
「ちょっと鉄平!!」
―― そんなことまで言わなくてもいいじゃんか!
「あらまぁ♪ そうだったの?」(母親)
「「「え!?」」」(恭平・潤平・父親)
「真紀は幼稚園の先生になるのが夢なんだよ。だからオレんトコに就職して、オレん家に嫁にくるから。ヨロシクな♪」
両親にも! 高らかに宣言した鉄平は、私の体をクルッと皆の方に向かせたかと思うと、私の頬に軽くキスをした。
「何すんのよ!」
お母さんはニコニコしていたけど、弟たちは仰け反り、お父さんの口は開いたまま。
それは……私が鉄平の頬を叩いたから。
―― だってファーストキスなんだもん。これが鉄平との初めてだなんて、ヤダ!
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
あれから私たちは鉄平の部屋に来ていた。
鉄平はベッドの上に座って、私は勉強机の椅子に座ってるんだけど……叩いちゃったから、なーんか居心地が悪いの。2人とも黙ったまんまで、顔も合わせてない。
彼の部屋に初めて入ったのに、中を見る余裕さえも無い。
ホントだったらデートで、今頃は映画館でアクション物を見ていた。「すごいね、面白いね」って、2人で話し合ってたハズなのに……
「おい」
漸く鉄平が口を開いた。それでも私はまだ、顔を見ることができない。
「…なに?」
「…オレがキスするの、嫌か?」
「そんなことない!」
「じゃあ、なんで…」
「ファーストキスなんだよ? …あんな『ついで』みたいにされたら、ヤだ」
「『ついで』って…。オレだって初めてで…」
「え、なに?」
聞こえにくくて、ついそっちを見たら……それからは鉄平の顔が、ちゃんと見れるようになった。
「オレだって初めてなんだよ。だからドサクサにまぎれて……じゃなくて、勢いに乗って……じゃなくて、えぇっと……」
「何も『夕日の綺麗な公園』とか『海辺で』とかって拘ってないもん。ちゃんと私のことを想って、ちゃんと私のことを見てキスしてほしいだけなんだよ?」
鉄平が頭を掻きながら話すのを見ていると、気持ちが落ち着いて余裕が出てきた。
こんな私って……変なんだろか。
「でも……叩いちゃって、ごめん。痛かった?」
「あんなの痛くないよ。……それより真紀、今から目ぇ瞑れ」
―― はい?
「え、何? いま? ココで?」
「ん。オレが今そっちに行くから、目ぇ瞑って待ってろ」
鉄平がベッドから立ち上がり、こっちに向かってくる。
「なんで命令形なのよ」
「いいから、ほら早く」
手を伸ばせば届く所まで来ている。
「はいはい」
返事をして目を閉じたときにはもう、鉄平の息遣いが聞こえていた。
鉄平が横に来て、しゃがんだような気配がした。そして……
「好きだよ」
言葉が聞こえたと同時に、座っている椅子ごと抱きしめられてキスされた。
「いいか? これがオレたちの1回目だぞ」
それは唇を重ねただけのモノだったけど、離れるときにペロリと舐められた。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
「もう1回、目ぇ瞑ってみ? 良いモンやるからさ」
「うん。なに?」
素直に目を瞑る私。
―― 決してモノに釣られたわけじゃないよ?(苦笑)
「いいぞ♪ 今日の元凶っつうか、コレのお陰っつうか……オレの忘れモンだ」
「これ…?」
手のひらに乗っている箱を、しげしげと見る。
「真紀へのプレゼント」
「ホントに!? ありがとう! ……開けてイイ?」
「……おいおい『開けてイイ?』なんて言いながら開けるか!? 普通は『いいよ』と言われるまで待つだろ?」
「だってメチャメチャ嬉しいんだもん♪ 女の子同士でプレゼントしあうことはあったけど、男の子から貰うの初めてだから……早く見たくって……えへへ…」
「そんなに喜んでくれたんなら……まぁいっか」
ちょっと呆れた感じの鉄平を横目に、私は箱の中身を取り出した。
「ネックレスだぁ…」
「指輪はサイズがあるだろ? だからコレにしたんだ」
「ありがと♪ 嬉しいな〜 でも……いつ買いに行ったの? 私たち、付き合ってからずっと一緒に帰ってたのに…」
「告る前に買った」
「はい? 告る前って、コレ……無駄になるかも知れないのに?」
「無駄にはしない。勝算はあったからな」
「すごい自信だこと」
でもその自信満々なところも、大好きだよ♪ なんて、今は言ってやんない。もっともっと後でもいいと思う。
だって、先はまだまだ長いんだからvv