ウチのクラスは鉄平が爆弾発言してくれたお陰で(?)ちゃんと納得してくれてるし、認識してくれてる。
『杉野鉄平の彼女は、野々村真紀だ』ってことを。
『杉野鉄平が、とんでもないプロポーズ宣言をした』ことを。
でも学園の生徒の中には「そんなの認めない!」なんて人もいるんだって。
相手が分かっていたら面と向かって言えるのに、相手が分かんなくて文句の一つも言えない状況って……ものすごーく、歯がゆい。
―― 大声で「なんであなたの許可がいるのよ!」って言ってやりたいのに……
私は、そんな人から『嫌がらせ』を受けた。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
1つ目。
登校してきて靴箱を開けた私は……固まった。
中は空っぽ。
―― 私の上履きは何処?
靴箱の前で突っ立ってても仕方がないから職員室に行って、ナカジーに事情を説明してスリッパを借りた。
2つ目。
4時限目が終わり、裕美たちに「ちょっと購買部へ行ってくるから、先に食べててね」と言って近道をしようと中庭を通っていたら……バケツの水が降ってきた。
全身びしょ濡れ。
―― 私を狙ったの?
今日は体育も無いからジャージも持ってきてない。仕方がないから保健室に行って、センセに服を借りた。
その格好で教室に戻ったら、水をかけられた私よりも裕美たちの方がショックを受けちゃって……。奈津子なんて「酷い!」って言って、泣いちゃったの。
お昼? もちろん食べ損ねたわよ!
3つ目。
6時限目も終わり、授業は終了。鉄平が「ちょっと部室の方に行ってくるから……」と言って教室を出た。
期末テストの一週間前に入るから、今日からクラブ活動は休みになる。
外で鉄平を待とうと思って、靴箱へ行き……また固まった。
私の靴が泥だらけ。
―― わざわざ濡らしてから砂塗れにするなんて……
ついに私はプッツン! と切れた。
3階まで一気に駆け上がり、放送室に走り込む。
「ちょっとマイク貸して!」
驚く放送部員を尻目に、マイクを握る。
「スイッチどこ? 入れてちょうだい」
部員が慌てて電源をON、そしてGOサインを出す。
「私は高等部2年の野々村真紀です」
スーーーッと息を吸って……
「鉄平に隠れファンがいるのは知ってたわよ。でもね、だからと言って、この仕打ちは無いんじゃない? ……嫌がらせしないでよ!
私メチャメチャ腹立ってるんだからね! 出てきなさいよ卑怯者!」
―― あ〜スッとした
呆然としている部員に、「ごめんね。おじゃましました〜」と言って退出した。
機材を扱っていいのは放送部員だけ、と決められている。
私用の放送も、部外者の立ち入りも禁止されている。
それを無視して、あんなことしちゃったから……もしかしたら職員室に呼び出されるかもしれない。名前を名乗っちゃったのは、ちょっと不味かったかもしれない。
だけど私は正々堂々としていたかった。
そして予想通りというか、なんというか……2階の職員室前には、私に向かってニコニコしながら『おいでおいで』しているナカジーが居た。
―― やっぱり、こうなるのね……
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
「野々村。なんで此処に呼ばれたか、分かってるか?」
職員室の隣の生徒指導室。
会議用の長机を挟んでパイプ椅子に座る、ナカジーと私。
「部員でもないのに放送室に立ち入ったこと。それから……私用で放送を使ったこと、かな?」
「よく分かってるじゃないか、ん?」
「えへへ……」
「えへへ、じゃないだろが。ほんとに、お前は……。まぁ内容が内容だっただけに、今回はお咎め無しだ」
「うそ!」
「じゃあ何か? 罰掃除でもするか?」
「ヤです! いや、その……『うそ!』ってゆうのは、あんまりにも嬉しかったから出た言葉で……」
おたおたと弁解を始める私。
「分かってるよ」
「え?」
「こんなイジメや嫌がらせに対して真っ向から反発する生徒は、まだ少ない。ましてや放送部のマイクを使って放送しちまうなんて、野々村が初めてだ」
「そうなの? 私、あんまりにも頭に来たから全部ぶちまけちゃったんだけど……あれで良かったのかなぁ」
「ま、いいんじゃないか?」
「……いいんですか?」
「そうゆうことにしておこう」
「………」
私は、ホントにいいのかなぁと思いながら生徒指導室を後にした。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
靴箱の方へ戻ってみると、もうそこには鉄平が来ていた。
「真紀? 何か言いたいことは?」
「え、と……待たせてごめんね?」
「それだけ?」
「?」
「放送室ジャックしたんだって? あちこちで噂になってる。オレもあの放送聞いて、ぶったまげたぞ?」
「ジャックなんてしてないよ! でも……アレ、聞いたの?」
「そりゃあ全校放送だもんな。聞いてないヤツの方が少ないと思うぞ」
「あちゃ〜 私ったら……」
今頃になって、恥ずかしくなってきた。
「ま、いんじゃね?」
鉄平も、ナカジーと同じことを言う。
「オレもちょっと考えてることがあるんだ」
「なに?」
「今は、ヒ・ミ・ツ♪ 明日、楽しみにしてなよ。さ、帰るぞ〜」
その日は結局なんにも教えてくれなかった。
で、翌朝ビックリさせられた。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
全校集会で、もうすぐ理事長の話も終わるか? というとき、
「2年3組の杉野鉄平君から話があるそうです。どうぞ前へ」
―― え!? なんで理事長が鉄平を紹介するの!?
疑問に思ったのは私だけじゃない。あちこちから「何!?」「なんで?」「何かあったの?」と囁く声が聞こえ、ざわめきが徐々に広がっていく。
そんな中、鉄平が壇上へ行ってマイクを握る。そして……
「野々村真紀は、オレがプロポーズして一生を誓い合った女性だ。親にも会わせて承認も取ってある。彼女へ嫌がらせをする者はオレが許さない。それ相応の、いやそれ以上の報復が待っていると思ってくれ。以上!」
途端に悲鳴、歓声、冷やかしの声が上がり、全校集会で前代未聞の大騒ぎになってしまった。
―― もうヤダ……