てんやわんやの野々村家

 期末試験も終わり、あのデートから一週間が過ぎた土曜日。

 駅で待ち合わせた私たちは、鉄平と両親を会わせるために我が家へと歩いていた。

 両親には上手く説明できなくて「友達を連れてくる」としか言えなかったけれど、初めてできた彼(とゆうか婚約者?)を両親に認めてほしいと思っている私。

 

「上手く言えなかったから、鉄平にお願いしたいんだけど……いい?」

「了解。でも……オレも上手く言えないかもな。自分の気持ちをぶつけるだけになるかもしれないけど、オレの心や思いを感じてくれたらと思ってる」

 いつもフザケてばっかりの鉄平が、とても頼もしく見える。

―― うん、大丈夫!

 

 気合を入れて、歩みを進めた。 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 いつものようにマンションのエレベーターを5階で降りて玄関の前に着いたとき、何の前触れも無しに反対側から勢い良くドアが開いた。

 どうやら進(すすむ)と歩(あゆむ)が遊びに行くところに出くわしちゃったみたいで、私たちと目が合った弟たちはその目を見開いたかと思うと

「「ねーちゃんが、オトコ連れてきたぞーー!!」」

 大声を上げながらクルリと向きを変え、ドアを閉じて家の中へ戻ってしまった。

―― あの子たちったら、ホントにもう……

 

 目の前でドアを閉められてしまった私たちは、というと……

「真紀……。今、アイツらの口を塞いでやりたい! って思ってるだろ?」

「わかる? いくら珍しいからって……あんなに騒ぐことないじゃない!

「オレも同じコト思ってる」

「鉄平が……なんで?」

「ちょっと卑怯なやり方かもしんないけど、真紀の親御さんには奇襲攻撃てゆうか…考える隙も与えず押して押して押しまくる、みたいな感じでいきたかったんだ。戦闘態勢に入られちまったら、苦戦しそうだな〜〜」

「鉄平……」

―― 不安になってきちゃった、どうしよう…

「そんな顔すんなよ。オレ、頑張るから。な?」

「うん」

 鉄平が顔を覗き込んで、そう言ってくれたから……私も頑張ろう!って思えた。

 

「よし、行くぞ!」 

 私たちは気合を入れて、玄関のドアを開けた。

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 6畳の和室。

 私の隣には鉄平、座卓を挟んで反対側には気難しい顔をした両親が座っている。部屋の入り口では美智(みち)・進・歩・萌(もえ)が一塊になって、中の様子を窺いながら小声でコソコソとやっていて……

―― な〜んか嫌な感じ…

 

 そんな重い雰囲気を打ち破るように、鉄平が明るい声で話し始めた。

 

「はじめまして、杉野鉄平といいます。突然おじゃましてすみません。こちらの真紀さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいてます。今日は、ご挨拶にまいりました」

 その言葉を聞いた途端に、両親の顔色が変わる。

「何だと!?」(父)

「結婚ですって!?」(母)

「オレの家は幼稚園を経営しています。真紀さんが大学を卒業したらウチに就職してもらって、そしてオレと結婚して園長になってもらって……2人で一緒に幼稚園を大きくしていきたいと思っています。……幼稚園のことを抜きにしても、オレは真紀さんを心から愛しています。ですから是非とも認めていただきたいんです。お願いします!」

「まだ高2じゃないか、早すぎる!」(父)

「そうよ、まだ決めなくても……」(母)

 頭を下げている鉄平に、私の両親の声が突き刺さる。それでも鉄平は顔を上げると、真っ直ぐ前を見て話を続けた。

 

「オレは、早すぎるとは思ってません。真紀はオレにとって必要な存在なんです」

―― ちょっと、鉄平……

 私の顔、絶対に赤くなってる。

 

「オレ、幼稚園経営は中学2年の時に決めました。そして嫁さんを園長に迎えて一緒に大きくしていこうという目標を立てて、そのために桜花爛漫学園に進学しました。そして今、理事長から特別に経営学を学んでいます。進学する大学も既に決まっています」

―― もう決まってるの?

 

 これは私も初めて聞いた。

 

「自分が何をやりたいのか、そのためには何が必要なのか、というのはとても大事なことだと思います。それがなかなか見つからない人もいるでしょう。オレは早い時期に見つけることができて、とてもラッキーだと思っています」

「そこまで考えているなんて…。あなた、本当に高2なの?」

 驚いたように母が聞く。

「はい。真紀さんと同じクラスです」

「しっかりしているじゃないか。……俺が高2のときは、遊び回ってたような……

 感心したように父が言う。

「鉄平は高1のとき、新入生代表挨拶したんだよ?」

「「新入生代表挨拶!?」」

 想像していた以上に両親が驚いて目を見開き……その後はもう反対するようなことは、何も言わなくなった。

 鉄平のコトを少しでも知ってもらいたいと思って口に出したのに。桜学園の『新入生代表挨拶』が、こんなに威力があるモノだなんて知らなかった。

 

 それからは妹たちや弟たちも加わって、他愛も無い話で盛り上がって……鉄平が帰るときには、父が一言「娘を頼む」と言ってくれた。

 嬉しくて、涙が零れそうになった。 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 鉄平が帰った後の、我が家では……

 

「就職先も結婚相手も、同時に見つけてくるとは…」(父)

「ビックリしすぎて心臓が止まるかと思ったわよ? もっと早く言ってよ…」(母)

「あんなイイ男、どうやって捉まえたのよ!?」(美智)

「「ねぇねぇ!あのオトコが僕たちの、にーちゃんになるの?」」(進と歩)

「カッコイイね。あの人は優しい?」(萌) 

 

 それぞれが好きなことを言い、思いつくままのことを聞いてくるからもう大変。

 日付が変わりそうな時間まで質問攻めにあってしまって、メチャメチャ疲れた。

―― 明日が日曜日で、ホント良かったわ……

 

2008.11.04. up.

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