鉄平side番外編

凛々しい『あの子』に一目惚れ

 オレは桜花爛漫学園高等部 1年1組、杉野鉄平(すぎの てっぺい)。外部受験で、高等部から入学した。

 毎年、外部受験トップ成績の者が「新入生代表挨拶」をするんだと。

 オレは二番目だから関係ねぇや〜って思ってたのに……トップの奴が熱出したとかで、新入生代表挨拶の話が廻って来た。それも入学式の当日に。

 熱が出ちゃあ仕方がない、とは思う。

 だけど新入生受付の所で学年主任(らしきセンセ)からイキナリ言われてみろよ、メチャメチャ驚くぞ?

 現にオレは、驚きのあまりにアゴが外れそうになった。いやマジで。

 

 気を取り直して、「決り文句を並べた簡単な挨拶で、いいですか?」と聞くと

「マイクの前で、この文章を読んでくれたらいいからね」

 なんていう優しい言葉が返ってきて、拍子抜けした。

―― んだよ、原稿あるのかよ〜

 

 そんなこんなで入学式は終わり、オレの新しい学園生活が始まった。 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 オレんちは、幼稚園を経営している。

 親父とお袋が出会ったのは、とある大学の初等教育科。

 親父の方が1年先輩だったけど、同じサークル内で知り合って、意気投合。学生結婚して……10年後には、2人で幼稚園を立ち上げたんだと。

―― いや〜昔っから、行動派だったんだね〜

 

 お袋は、産まれてくる子どもたちに、この幼稚園を継いでほしかったらしい。だが……産まれたのは男ばっか3人。

 オレは幼児教育よりも経営学に目覚めてしまったし

 上の弟は、柔道一直線! て感じで、体を鍛えるのが趣味なヤツ

 下の弟は、寝言で「パス、まわせ〜!」と叫ぶほどのサッカー狂で……

 

「無理っぽいわねぇ……。じゃあ、あんたたちの『お嫁さん』にお願いしようかしら?」

「オレが継ぐよ。経営学をバッチリ勉強して、可愛い先生を嫁さんにして、園長になってもらってさ……」

 お袋の一言で、オレは自分の未来を決めた。

 そしてゆくゆくは小学校も併設して中学校・高校と、デッカクしてやる! という決意を胸に、オレはこの学園に来た。

 

 

 中学から長距離をやっていたから、部活も同じにした。

 そして迎えた中間テスト。

 このとき、初めて自分の成績順位が判る。内部者・外部者、関係なく…

 中間で6位、期末で5位を取ったオレは―― 来るべき未来(学園経営者)を目指し、順調に歩んでいた。

 『あの子』と出会うまでは… 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 二学期になると、周囲の奴らが浮き足立っているような……落ち着かない雰囲気になってきた。

 「何かあるのか?」と内部生の奴に聞いてみると、「もうすぐ桜祭(さくらまつり)なんだぜ♪」……と嬉しそうに、詳しく教えてくれた。

 オレは、その内容に驚いた。

―― 一週間かけて、祭りをするのか!?

 

 春の『花見一般公開』にも驚いたけど、これも凄い。正直、ぶったまげた。

 世の中って、広いなぁ〜 なんて思ってる間にも慌しく日は過ぎていき……高等部の体育祭当日になった。

 入場行進をしながら、本部席横で演奏している吹奏楽部員たちを何気なく見ていていたオレは、一瞬、心臓が止まったようにドキッとなった。

 

 オレは女の子を誉める形容詞には、“綺麗”と“可愛い”しか無いと思っていた。けれどその中に、初めて“カッコイイ”が加わった。

 そう。あのサックスを吹いている子は……“カッコイイ”

 立ち姿も、動作も、真剣な表情も、本当にカッコイイ!

 綺麗系の顔立ちをしているけど、“綺麗”というよりも“凛々しい”といった感じだった。

 

 あんな子がいたなんて、知らなかった。 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 周りの奴らに、『あの子』のことを聞きまくった。

 今まで経営学と長距離にしか興味の無かったオレが、まさかこんなことをするなんて……自分でも驚いたけど、ただ必死で情報を集めた。

 『あの子』は1年3組、野々村真紀(ののむら まき)。内部生。

 中等部のころから吹奏楽部でサックスを吹いてるとかで……おまけに学年の成績順位、将来の夢、その他いろいろなことまでも教えてもらった。

 そして確信した。オレに必要なのは『あの子』だ、あの子しかいない、と。

 運命とさえ思えた。

 

 でもオレの成績だと文系特進科で、『あの子』は文系普通科になるだろう。

―― さぁ、どうする?

 このままだと、2年になって「あの子」と同じクラスになるのは無理だ。

―― さぁ、どうする?

 かといって、自分の成績を落とすのはイヤだし……

―― さぁ、どうする?

 

 オレは意を決して理事長に直談判することにした。

 結果……

「いいでしょう。君の成績が普通科に埋もれてしまうのは惜しいですが、希望どおりにしましょう。その代わりと言っては何ですが、私の方からも条件があります」

「条件?」

「1つ、普通科で常にトップの成績でいること。2つ、毎年私の夏季集中講座と冬季集中講座を必ず受けること。…いいですか?」

「1つ目は、軽くクリアできます。でも2つ目の……それって一体どういう意味ですか?」

「実は……」

 

 理事長は某大学の教授もしていて、そこで経営学を教えてるんだって。その大学にオレが潜り込んで、タダで理事長の講義を受けて……って、いいのか!?

 これってメチャメチャお得じゃん。

 理事長、本気か? 冗談じゃないよな? オレ、その話に乗っかっていいんだよな?

 ……よし決めた。

 その条件、飲ませてもらうぜ!

 

 

 そうしてオレは希望どおり、文系普通科に進めることが決定した。あとは『あの子』がオレの狙いどおり、同じクラスになるかどうかだ。

 神様なんて信じちゃいないけど…

 お願いだ!

 どうか「あの子」と……

 

2008.00.00. up.

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