鉄平side番外編
理事長との約束どおり、オレは冬季集中講座を受けるべくK大のキャンパスに来た。
私服姿だと、オレが高校生だなんて気付く者は誰も居なかった。違和感なんて全然無いのかもしれない。
守衛さんには既に連絡が入っていたようで、ごく普通に話しかけられた。
「相澤(あいざわ)教授から話は聞いているよ。外部からの聴講生なんだって? 熱心だねぇ〜」
「……そうなんですよ、経営学を教わりたくて…」
一瞬、「相澤教授って、誰だ!?」と思って、ちょっと返事が遅れてしまった。
そういえば理事長の名前は、相澤康太朗(あいざわ こうたろう)だった。間違っても「理事長〜」なんて呼んだらヤバイし、名前を忘れていたことは内緒にしておこう。
―― うん、それがいい。
オレはその日から一週間、K大に通いつめて勉強した。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
K大の冬季集中講座を受けることは、理事長との約束事であり、「経営学を学ぼう!」と決めたオレにとっては必要なことだった。
でもそれを妨害(オレにとっては妨害以外の何物でもない!)する者もあった。
まずは、お袋。
「何言ってるの!? クリスマス会にサンタ役が居ないとダメじゃないのよ〜」
講座の日程が、幼稚園の行事と重なっていた。オレがサンタの衣装を着て、毎年参加していたんだけど……
「ごめん、高校を卒業するまで出来ないんだよ。これにはオレの将来が掛かってるんだ。大げさじゃなく、本当に。……だから誰か他の人に頼んでくれよ、な?」
次に、部活の顧問。
「お前にも参加してもらいたい大会があるんだ。そのための合宿が……」
「オレは勉強したいんです!」
「期末試験、全教科満点だったのに!? そんなに勉強しなくても良いじゃないか」
「オレの将来に必要な事を学ぶんです。先生は、それを止める気ですか?」
相手の都合や言い分も分かるけど、……じゃあオレの都合は? 言い分は?
オレは―― やっぱ自分の将来のことが大事で、そっちを優先したいから―― だから外野は一切、無視をする。
オレは、オレの将来に向かって突き進んでいくぞ〜!