番外編1
― 楢崎洋輔 & 瀧川稔 ―
「アイツのことだから、何か仕掛けてくるだろうな」
式が滞りなく進行していく中で、俺は余計な(?)心配をしていた。
瀧川稔は、一口で言えば『高校生らしくない高校生』だ。
外見は、確かに高校生。だが中身は、俺と同年代か!? と思うくらいに落ち着いている。
沈着冷静で、頭のキレが良い。ゆえに学園の生徒からの信望も厚く、教師陣からも一目置かれている。
『どんな場面で、どんな言動をすれば、最も効果的か』というのをよく理解し、また、自分の立場を優位に持っていくのが上手い。
今までと違った斬新なアイデアを出し、俺と討論しながらも、吹奏楽部の部長職を完璧に遣り遂げた稔。
俺と対等に話せる生徒が、もう卒業してしまうのかと思うと……少し寂しい気もしないでもないが……。
だが今日は、稔の門出を盛大に祝ってやるとしようか。
―― 卒業しても、オマエは『可愛い彼女』が居る音楽室に来るだろうし?(笑)
『守るべき存在』を見つけたオマエがどんな風に変わっていくのか、楽しみだ。
俺は稔の横顔を眺めながら、そんなことを考えていた。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
式が滞りなく進んでいく。………表向きは。
もうすぐ僕の出番だ。
―― 『高校生活最後の日』だから、しっかりと挨拶させてもらおうかな♪
「………僕たちは数々の思い出を胸に、この学園を飛び立って行きます。
……………諸先生方には、本当にお世話になりました。改めて御礼を申し上げます。……………本日は本当に、ありがとうございました。皆様方のご活躍をお祈りし、御礼の言葉とさせていただきます。
平成○×年1月29日 卒業生代表、瀧川稔」
割れんばかりの拍手の後、僕は壇上の理事長に『答辞』の文面を手渡した。礼をし、席に戻るように見せかけて再びマイクを手にし、今度は皆の方へ向く。
「最後に在校生諸君へ一言。……僕の彼女を虐める奴は容赦しないからね」
途端に、蜂の巣を突いたように騒ぐ生徒たち。慌てふためく教職員。驚いて固まっている来賓や保護者の顔色が、赤くなったり青くなったり……。
そんな中で、平然としていたのは……理事長と楢崎先生だけ、だった。
―― さすがですね。僕が『何か』するのを予測していたんですか?(苦笑)
「静粛に!! ……くれぐれも間違いの無いように。 以上!」
マイクを元の場所に戻すときに、理事長と目が合った。
「六年間、本当に……ありがとうございました」
ニッコリ笑って頭を下げると、理事長は
「この先も、キミらしさを失わずに……潔(いさぎよ)く、真っ直ぐに進んでほしい」
そう言って、慈愛に満ちた眼差しで僕を送ってくれた。
「…え?」
自分の席へと戻っていく途中で、不意に楢崎先生の声が聞こえたような気がした。足を止めて教職員の席を見たけれど……
―― あの先生が卒業式の最中に発言するワケ無いか……
思い直して、再び前を向いて歩き始めた。
僕の心が、楢崎先生の『心の声』に反応したのにも気付かずに……。
(楢崎先生の心の声)
「やっぱり、というか何というか………本当に、たいしたヤツだよ、オマエは」
― End.―
★おまけ♪…⇒『卒業式』羽山千尋side