番外編2
先輩が来てくれる! そう思っただけで心臓が煩いくらいにドキドキしてくる。
みんなはテストの最中だというのに、部活が始まるまでまだ時間は有るのに、稔先輩は後輩の指導をするために来てくれるのに、デートができるのは部活が終わってからになるのに……
それなのに頭の中はもう、稔先輩のことだけしか考えられなくなっている。
初めてデートした日から、先輩とは電話とメールだけ。もう3週間も会ってない。
会いたい。
会いたい!
早く会いたい!
私は逸(はや)る気持ちを押さえながら、音楽準備室の 扉を開けた。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
稔先輩は、大学が合格してすぐに自動車の教習所に通っているから忙しい。
それが分かっているから「次は、学年末考査が終わってから会おうね」って言われたとき、「はい」って返事した。
我が儘は言っちゃダメだと思ったから、それ以外の言葉は口にできなかった。
本当は「そんなのイヤ!」って、思ってたのに……
携帯から聞こえる優しい声に、泣きそうになったこともある。
『会いたいです』のメールだけは、未送信のまま置いてある。
試験勉強してるときでも稔先輩の顔がチラついて、溜息ばかり出てた。
「寂しくなるだろうな」とは、漠然と思ってた。けど、“会えない”のがこんなに寂しいことだなんて……考えてもみなかった。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
会いたい。
会いたい!
早く会いたい!
自分用のクラリネットを取り出しながら、心の中で先輩のことを考える。
私は……稔先輩に負担をかけちゃいけない、と思ってる。だけど「寂しい」「会いたい」って、正直な気持ちは言ってもイイよね?
うん、先輩が来たら、そのまま伝えよう。
そうしよう!
稔先輩のことが大好きな大好きな私の、この気持ちを……
― End.―