続編
あれから2週間も経たないうちに、浩一郎さんと一緒に暮らすことになった。
私も独り暮らしをしていたし異論もなかったけれど、たしか『ゆっくりいけばいい』みたいなことを言ってましたよね?
―― 展開が早いような気がするのは、私だけ……?
私生活での浩一郎さんは「嘘でしょ?」っていうくらい、会社とは全く違う。
優しく包み込んで甘えさせてくれて、とても大切に扱ってくれて、一緒に居ると胸がドキドキしたりフワフワしたりして……どうしたらいいのか戸惑うときもある。
雄二さんのことは好きだったけど、こんなに胸が高鳴ることは無かった。だから今は、ちゃんと分かる。あの時の私たちは『恋人ごっこ』をしていた、と。
―― 浩一郎さんへの感情はLOVEで、雄二さんへの感情はLIKEだったと……
「ん……もう一度。ほら、恥ずかしがらないで……こっちを向いてごらん?」
一日に何度も何度もキスをされて、私も応えられるようになって……ようやく慣れてきたかなって思うの。
浩一郎さんとは、ちゃんと恋人同士になりたい。
けれどキスよりも上のことを要求されたら………私には、まだ無理。
そしたら浩一郎さんは、今までの人と同じように私から離れていく……の?
あの人は大丈夫、待っててくれる! って信じているんだけれど、急に不安になるときがあるの。
こんな私だけれども、浩一郎さんのことを愛していいですか?
浩一郎さんは、どんなつもりで「一緒に住もう」と言ってくれたんですか?
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
僕は由紀と結婚したい。
だから少しでも早く僕に慣れて、というか……隣に僕が居るのが当然という状態になってほしいと思って、一緒に住むことを決めた。
由紀は僕とのキスにも慣れてきた。
ベッドで2人一緒に眠るときも、最初は緊張していたようだったけれど……今では変な力も抜けて自然体になって、僕の腕枕で眠ってくれるようになった。
何もかもが、ゆっくりではあるが順調に進んでいると思う。
でも今、僕を不安にさせているのは…僕の弟・雄二の存在。
由紀は1年もの間、雄二に頼っていた。
その心をずっと占領していたのは……雄二。
君の心には、まだ雄二が住んでいるのか?
僕の存在は、君の心の中に在るのか?
在るとしたら、どのくらいなんだ?
君は自分の意思で、僕と共に居てくれているのか?
まさか僕を通して雄二を見ている、なんてことは無いだろうけれど……。
心の中で比べられていたらショックだなぁと、柄にも無く思ってしまう僕は……やっぱり弱気になっているようだ。
こんな気持ちで接していたら、由紀まで不安にさせてしまうだろう。
―― 僕が、しっかりしないと……
由紀のことが好きだ。
愛している。
由紀も僕を……愛している、よな?
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
職場では、いつもの係長だけれど……最近の浩一郎さんは、なんだか口数が少なくなったような気がする。
悩み事でもあるのかしら。
―― それとも私……何か、してしまったのかしら……
「最近、私たちの会話が少なくなってきたような気がしませんか?」
夜。ベッドに入ったときに、体ごと浩一郎さんの方に向いて話してみた。
「え!?」
いつも人に話をするときも、人の話を聞くときも、きちんと相手の目をしっかり見る人なのに……微妙に逸らされてしまった。
―― どうしてなの!?
その何気ない仕草に浩一郎さんの本心が隠されているようで、私は例えようのない不安に呑み込まれそうになる。
「違う。由紀のせいじゃないよ」
私の顔色が変わったのを察知したのか―― 浩一郎さんは優しく微笑んで、包み込むように私を抱きしめてくれた。
「強いて言えば、僕に自信が無いから……かな」
―― え?
「浩一郎さんに? そんなこと……」
「あるわけない、って? これでもいろいろ悩んでいるんだよ。聞いてくれるか?」
「私……が?」
「そう。これ以上、由紀を不安にさせないためにも」
「分かっていたんですか?」
「ああ。情けない男の話を聞いてくれ」
そう言って浩一郎さんは、話し始めた。
どうしても弟の存在が気になること、そして心の中の何もかもを。
私も同様に、心の中で不安に思っていること全てを彼に話した。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
由紀の穏やかな寝顔を見ながら、僕は独りで考えていた。
馬鹿だな、僕は……
気をつけていたつもりなのに……気付かれて、不安にさせてしまって……
本当に馬鹿だよ。
こんなに僕を愛してくれていることに、気付けなかったなんて……
由紀が話し合う切っ掛けを作ってくれなかったら、僕は……いや僕たちの心は擦れ違って、離れていってしまったかもしれない。
弟の存在を気にするなんて馬鹿げてる、情けないことだと分かっていたのに……
なかなか言えなかった。
―― 全部、君のおかげだよ。ありがとう…
由紀には感謝している。
本当に真面目で良い子だね。惚れ直したよ♪