番外編

過去

「由紀にとっては辛いことだと思う。だけど僕に、昔のことを教えてほしいんだ。初めての、彼のことを。……間違って、君に嫌な思いをさせたくないから……」

 

 浩一郎さんの言いたいことは理解できる。けど……私には不安があるの。

 あの事を聞いても、あなたは……私のことを好きでいてくれますか? 

 

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「合コンのメンバーが足りないのよ。お金は要らないから。お願い、来て〜!」

「……いいわよ、別に予定も無いし……」

 短大に入学して半年が過ぎようとしていたとき、友達(たまに話す程度の子)に誘われて、軽い気持ちで参加した。

 そこで知り合った人に猛烈に言い寄られた私は、その2歳年上の彼と付き合うようになった。(とてもいい感じの人に思えたから……)

 

 どんなふうに『お付き合い』したらいいのか分からなかった私だったけれど、彼は「何も気にすることなんて無いんだよ」と言ってくれた。

 初めてのキスも、優しかった。

 だからホテルに誘われたときも、安心して身を任せられると思っていた。

 なのに部屋に入ると、彼は何も言わずに服を脱ぎ始めた。 

 私が驚いて、その様子を見ていると「君も脱いだら?」と言われて……それなら、と思って……私もコートを脱いでハンガーに掛けた。

 その途端に、彼は……自分のタイで私の両手首を縛って、ベッドに押し倒した。

 どんなに抵抗しても、抗議の声を上げても無駄だった。 

「忘れられない夜にしてあげる」

 彼は薄笑いを浮かべながら、そう言った。

 

 ハンカチを口に入れられ、タオルで目隠しをされた私は、されるがままの状態で……聴覚だけが、研ぎ澄まされたように敏感になっていった……

 

    着ていた服が、引き裂かれた。

    叩かれて、体のあちこちが痛い。

    体内には、彼以外のモノも挿入された。

    どんなに叫んでも、くぐもった声しか出せなくて

    何も見えないから余計に……痛みも、恐怖も、倍増されて……

    私は、そのまま気を失った。

 

 どれくらいの時間が過ぎたのかは分からない。目が覚めたときには、もう……彼の姿は無かった。

 拘束は全て解かれていたけれど、私は全裸のままベッドに寝かされていて……そのシーツは血で染まっていた。

 

 体内には、まだ異物感があって、それに……まだ痛みが残っていた。

 体中には、叩かれた痕と……蚯蚓(みみず)腫れになっている痕があった。

 

 初めてのSEXで出血する、というのは聞いたことがある。でも私の場合は……他の人とは状況が違う。

 素肌の上からコートを着た私は、その部屋から逃げるようにして帰った。

 

 その日から3日間、出血が止まらなかった。

 何をされたのか、まるで分からない。体内に傷がついているのかもしれない。

 とっても怖かったけど……相談できるような人は誰も居なくて、田舎に居る両親にさえも言えなくて、産婦人科の病院に行く勇気も無くて……ただ独り、アパートに閉じこもって泣くことしかできなかった。 

 彼に会うのも、声を聞くのさえも怖かったから、携帯を解約した。

 大家さんに「ストーカーされていて怖いから」とお願いして、もう一つのアパートに引越しさせてもらった。

 学校も休んだ。後期の授業は、半分くらいしか出られなかった。 

 

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「あれから暗闇が怖いの。不眠症にもなったわ……」

 

 恐怖が蘇ってくるのか、由紀は声を体を震わせながらも話してくれた。

 僕は由紀を抱きしめたまま黙って聞いていたけれど、その相手に対して強い怒りが込み上げてくる。

―― くそッ、なんてヤツなんだ!

 

 心も体も傷つけられた由紀が、とても痛ましく思う。と同時に、救いたい! という気持ちが胸に溢れてくる。

「……ありがとう、よく話してくれたね。君に何があったとしても、僕の心は変わらないから」

―― 僕は君を大切にする。この気持ちは一生変わらないと誓うよ……

 

 思いをこめて、由紀に口づけをした。

 

 

― End.―

2008.11.25. up.  2011.05.29. 加筆修正.

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