「あら、あなた……此処に来るの、初めてよね。どなたからの紹介なの?」
「え、あの……」
「急に話しかけられて驚いちゃった? ごめんなさいね。だけどあなたラッキーよ。なんてったって此処の先生は、とっても上手で丁寧で……おまけに二人とも、超超イケメンなの!」
「そ、うなんですか……」
「マスクを外した時の顔、見れる機会があったら見てご覧なさいよ。本っ当に見とれちゃうから♪」
「はぁ……」
「あ、そうそう。受付の可愛い恵子ちゃんとオバサンも――」
「ちょっと、誰が“オバサン”なの!? 私の名前は“おおばさん”よ! 私たち同い年でしょ? 私がオバサンなら、幸枝(ゆきえ)だってオバサンだわ」
『受付』の小窓から、大庭嘉子(おおば よしこ)が顔を出す。
「それに、あの子は“可愛い恵子ちゃん”じゃなくって“河合恵子(かわい けいこ)ちゃん”! もう、幸枝ったら……彼女、驚きすぎて固まってるじゃないの」
言われて見れば、さっきの女性が目を丸くして固まっていて……幸枝は慌てて彼女の顔を覗き込み、謝罪の言葉を口にする。
「ビックリさせてごめんなさい。初めての人でも覚えられるように、面白おかしく紹介したの。気を悪くしちゃった? ……本当にごめんなさいね」
「あ、いえ……はい。大丈夫ですから……」
それを聞いてホッとひと安心した幸枝。だが、何か言いたげな表情の嘉子を見た途端に、顔が引き攣ってしまう。
「ちょっと……ねぇ嘉子ちゃん、怒んないでよね。あたしと嘉子ちゃんの仲じゃないの、機嫌直してよ……」
「馬鹿ね、怒ってなんかないわよ。幸枝ってば宣伝してくれるのは嬉しいんだけど、初診の人を見かける度に同じことばっかり言うんだもん。毎回、同じツッコミ入れるの飽きてきちゃって……」
「……そう言われれば、そうよねぇ。……他の紹介の仕方って、どんなのがあるかしら……」
「……ホント、幸枝と話してたらストレスなんて吹っ飛んじゃうわね…… あ、こんにちは――」
午後のひととき。幸枝さんが来た日は、とても賑やかになります。
― End.―