そんなの無理…(07.香織)
補佐の仕事さえ満足にできてないのに、メインの電源を任されてしまった。 …失敗したらどうしよう… 重圧感に押しつぶされそうになった私は、帰宅後に『スーパーバイザー マニュアル』を捲りながら、頭の中で何度もシミュレーションした。 のに 翌朝、私は…緊張のあまり、手順を間違えて…メインをダウンさせてしまった…
「何やったのよ!!」 「すみません!順番を間違えて…」 室長には叱られて、課長には睨まれて… キーパンチャーの皆さんは、呆れた顔で休憩室に入っていくし…
この会社のキーパンチャーは、自分が入力したタッチ数で給料が決まる。 ベテランの人や、休憩時間でも入力してるような人は、お給料が多い。 だから今回みたいなことが起きると…………不機嫌・ご立腹 etc... メインが一度ダウンしてしまうと、再起動させるまで5〜10分は空けないといけなくて…それから電源を入れて、起動させて… 作業ができるまで、どれだけの時間を無駄にする? その間、どれだけのデータ入力ができると思う?
「すみませんでした。電源が入りましたので、入力をお願いします」 復活して即、私は休憩室へ行って、皆さんに頭を下げた。
私…初っ端から、とんでもないことをやってしまいました…
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お昼。 優希ちゃんと食事をしながら、今朝のことを話した。 「あんなに頭の中で何度も練習したのに、本番で失敗するなんて…自分でもホント信じらんないわよ…」 「大変だったわね」 「うん…。間違った箇所は分かってるから、もう同じ失敗はしないわ。…動き始めてた機械が、『あっ!やっちゃった』って思った途端に『ブゥゥゥゥ…』って…情けない音をあげながら、力が抜けていくような感じで止まっちゃったの」 「あらまぁ」 「もうあんな音は聞きたくないから、月曜の朝はバッチリ起動させるわね!って…当然か…。これが出来なきゃ仕事にならないもんね。頑張るわ」 「頑張り過ぎないように、気をつけてよ?」 「了〜解♪」
その後は、何も起きることなく無事に一日が過ぎていった…
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月曜日。 出勤して、ビックリした。 「なんで透明になってるの!?」
先週の金曜日までは、総務課・営業課・キーパンチ室の間仕切りはクリーム色で金属みたいな材質の物だった。 それにドアが付いていて、互いに行き来していた。 なのにそれらが全て、腰から上の部分が透明のプラスチック製の物に変わっていて…(もちろんドアは付いてるけど…) 間仕切りが変わっただけのことなのに、他所の職場に居るみたいな感じがする。 …何かあったのかなぁ…
「優希ちゃん、おはよ♪ あの間仕切り、見た?」 出社してきた優希ちゃんに聞いたら 「おはよ…。…あれね……えぇっと…」 何故か、言いにくそう…? 「え、なに?知ってるの? どうしたのよ、教えてよ〜〜」 「あのね。総務課で、香織ちゃんが着替えてたのを…お兄ちゃんと清水課長が、たまたま見ちゃったらしくって…それで…見通しよくしようってことになって…」 「!!!!」 私が原因なの!? 見られてたの!?
恥ずかしくて、恥ずかしくて…顔が真っ赤になってきた。 「いや、あの…香織ちゃんのことが切っ掛けになったのかも知れないけど…お互いに見えている方が、なにかと便利じゃないかって…それに防犯上の理由もあるとかで…」
私の頭の中には『どんな顔して課長に会えばいいの!?』しかなくて、優希ちゃんの言葉を聞いて理解する余地なんて全く無かった。
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慎重にメインの電源を入れて、ちゃんと立ち上がったのを確認してホッとする。 途端に、さっきのことを思い出して…穴があったら入りたい気持ちになってくる。 見られていたなんて、恥ずかしい 課長、どんなふうに思ったんだろう どんな気持ちで、私と話してたんだろう 悪いのは私なんだけど…やっぱヤダな〜
なんてことを色々考えていて、ふと顔を上げて……… !!! 「…なんで少ないの!? なんで…」 もう始業4分前なのに、キーパンチャーが5人しか来ていない。 それに高峰さんも! 一体、どうしたの!?
そのとき営業の方のドアが開いて、清水課長が慌しく入ってきた。
「高峰さんがキーパンチャーを引き連れて辞めた。…君に室長をやってもらう」 「そんなの無理…」 一瞬で血の気が引いた。 身体がカタカタと震えてきて、涙が滲んでくる…
「俺がフォローする。しっかりしろ!」 「課、長…」 私の両肩に手を置いて、励ましてくれたから…縋るような目で見上げてしまった。 「…早急にキーパンチャーの募集をかける。心配するな」 「はい…」
とは言ったものの…私は、どうしようもなく不安だった。 |
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