放っておけない(13.琢磨)
「高峰さんがキーパンチャーを引き連れて辞めた。…君に室長をやってもらう」 「そんなの無理…」 事の次第を告げると…一瞬で血の気が引き、カタカタと震えだして、涙を浮かべる羽山さん。 動揺することは予測していたが、これほどショックを受けるとは思わなかった。
「俺がフォローする。しっかりしろ!」 「課、長…」 両肩に手を置いて励ますと、縋るような目で見上げてくる彼女。 その表情に、俺の心臓がドクン!と鳴って…一瞬、言葉を失った。 「…早急にキーパンチャーの募集をかける。心配するな」 「はい…」
不安な面持ちの彼女を残し、人事課へと急ぐ。 …俺が、あの子を支えなければ! 心の中は、そんな思いで一杯だった。
事情を説明した俺に、酉島課長は 「…では早速、手配しますね。ところで羽山さんは…あの子は大丈夫ですか?」 と聞いてきた。 「相当ショックを受けていますが、俺がフォローします」 「それを聞いて安心しました。宜しく頼みますよ♪」 「……」 それには答えず、頭を下げた。 …なぜ酉島さんが、あの子を!?
なぜかムカついていた。 …あなたに頼まれなくとも、俺は……
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その日。 営業課の仕事を全て、係長の斎木に任せた俺は…羽山さんに付きっきりで、キーパンチ室に居た。
いきなり重要なポジションを任された彼女の戸惑いが、手に取るように分かる。 でも彼女は泣き言など、一つも言わなかった。
俺の助言を聞き漏らさないように、聞こうとする姿勢 マニュアルを見て確認しながら、一つ一つのJOBを正確に進めていく様子 慣れない作業に手間取りながらも、一生懸命に取り組む姿… どれもが、俺の心に焼きついた。
高峰さんのようにテキパキ出来ないのを気にしている様子だったが…そんなのは、仕事に慣れれば解決すること。何も問題ない。 時間がかかるのは当たり前。ただ… 「納期は絶対に守れよ」 それだけは念を押した。
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あれから10日が経ち…キーパンチャーの人数も増えた。
羽山さんの室長ぶりも、なんとか様になってきたようだ。 高峰さんが言っていた『満智子なら、必ず彼女を助けてくれます』の言葉どおり、渡部さんも協力してくれている。 俺も、少しずつ営業の仕事を増やせるようになってきた。
あの子は…不思議な子だ。 放っておけない、手を差し伸べてやりたい!…そう思わせるのに、 芯は…しっかりしている。 そんなに気を張らなくてもいいんだぞ? もっと俺に頼ってくれてもいいんだぞ? つい、そんなことを言いたくなるなんて……俺は、どうしたんだろうか…
心の変化に戸惑う俺を、そのままに。全ては順調に、穏やかに進んでいた…。 |
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