隠れていた真実(19.千尋)
『羽山香織さんが怪我をして、駅前第二病院に搬送されました。詳しいことは後ほど説明いたしますので、とにかく急いでお越しください』
姉の会社の社長からの電話は、挨拶も何もかもをすっ飛ばしていて…用件のみの事務的なモノだった。 でもそれは私たちの日常を大きく変えるのに十分なモノで… …カオちゃんが!? なんで? どうして? 酷いの? 容態は? いろんなことが頭の中に浮かんだけれど、私は「はい」としか言えなかった。
「お母さん、早く!」 ちょうど家の前に通りがかったタクシーに乗って、病院へと急ぐ。 夜間通用口から入り、職員に病棟を聞いて…姉の病室へ着いた。 中に居る人たちに会釈してから、眠っている姉を見て…やっと一息ついた。 それから互いに挨拶し、自己紹介をしてから…姉の容態や、その身に起こったことを教えてもらった。
けど…まさかそんな酷いことがあったなんて、思わなかった…
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
「香織は、また…そんな目に遭ったんですね…」 話を聞いた後に、母がポツリと言った。 「ねぇお母さん。また、って…どうゆうこと?」
そのとき私は初めて、姉の誘拐事件の詳細を母から聞いた。
「警察が家を包囲したら、犯人が逆上してね…。香織を片手に抱きながら、包丁を振り回して……。取り押さえられたから良かったようなものの、一時は香織の命さえ危ない状況だったの。それに誘拐されてる間中も、『泣くな!』って…包丁を突きつけられて脅されてたらしいわ…」 「だから、あの時…」 「ええ。忘れてしまって良かった、トラウマにならなくて良かった、って言ったのよ」 「私…知らなかった。カオちゃんが、そんな怖い目に遭ってたなんて…」 「まだ小学2年生だった千尋に、本当のことなんて話せなかったわ」 「…だよね…」
「今は眠っていますが、彼女が受けた精神的ショックは大きくて…目が覚めたときに、どんな状態になるか分かりません。俺が近くに居ながら、こんなことになるなんて…どうお詫びしたらいいのか…本当にすみませんでした」 姉の上司が、私たちに向かって頭を下げた。でも… 「そんなこと仰らないでください。あなたがカオちゃんを助けてくれたんでしょ?」 「こちらの方こそ御礼を言わなければいけませんわ。…香織を助けてくださって、ありがとうございます。どうぞ頭を上げてください」
そんなやり取りの後… 社長の藤堂さんと、総務の徳田さんが帰り、 母が「一応、入院の用意をして…明日の朝に、また来るわ」と言って帰宅し、 病室には私と、上司の清水さんが残った。
私はベッドの横までパイプ椅子を持って行き、眠っている姉の顔を見ていた。
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ふと壁の時計を見ると、もう夜中の12時を過ぎていた。
「あの…遅くまで、ありがとうございました。後は家の者で看ますので…」 「俺も居させてくれないか? 傍に居たいし、居てやりたいんだ。…迷惑か?」 「迷惑だなんてことありません。居てくださるのは嬉しいです。ただ…あなたが疲れるんじゃないかと思っただけですから」 「なら大丈夫だ」 「ありがとうございます」 「…………」
それからまた、静かに時間が流れた。
「ぅ〜ん……」 「香織!」「カオちゃん?」 …あなた今、『香織』って呼び捨てにしました? と思う間もなく、 「キャァ ――――― ッ!!」 という悲鳴と共に、姉が目を覚ました。
それから後の、清水さんの行動の、まぁ早いこと早いこと。
真っ青な顔で震えている姉のベッドに入り込み、(なんでそうなるのよ!) 「もう大丈夫だ、心配ない」なんて言いながら 抱きしめて、頭を撫でて……(あっちこっち触りまくりなんですけど?) ラブラブのカップルか!? って思うくらいで…(キスは無かったけどさ〜) 見ている私の方が恥ずかしかったわよ。(あなた、ホントに上司なの!?)
まぁでも、そのおかげってゆうか…姉は落ち着いた。顔が真っ赤だったけどね…
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「カオちゃん、いつの間に彼氏ができたのよ。私…何にも聞いてないんだけど?」 姉が落ち着いてホッとした私は、ズルイだの酷いだのと、ボヤキまくっていた。
でもこの2人は、まだ付き合ってないとゆうか…お互い『好き』だってのも知らなかったみたいで…。 ベッドの上での告白劇はもう、見てらんないほどの熱々ぶりだった。 「ちょっと! 私がココに居るの分かってんの!? 知ってて見せ付けてる?」 なんて口を挟んじゃったくらいだもん。ホントにもう……。
でも、姉が元に戻って良かった。 またあの時みたく、記憶が無くなったりしたらヤだもん。 これも彼氏のおかげ、なんだろうか。
この人なら、カオちゃんを任せても…イイのかな? |
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