守りたい!(1)(26.琢磨)
香織には「任せておけ」と言って笑顔を見せたが、内心では…その『噂』に、無性に腹が立っていた。 会議室から営業課に戻って席に着き、部屋をざっと見渡した俺は…全員が揃っていることを確認し、「皆、手を休めて俺の話を聞いてくれ」と切り出し…
香織の怪我の状態を説明し、「変な噂から守ってほしい」と頼んだ。
「打ち身だけじゃなかったのか!?」 「変な噂って…具体的に、どういったものです?」 「なぜ課長がそんなことを頼むんですか?」 「こんなの初めてじゃないですか」 予想どおりの反応をした部下たちに対し、俺はハッキリと告げた。
「『性的暴行を受けた』という、心無い噂から、彼女を守ってやってくれ。そんなことは一切、無かったと断言する。あの場に居合わせた俺が証人だ、頼む…」
頭を下げた俺に、課内は騒然となった。 ショッキングな内容に加えて、俺が仕事以外で頭を下げたことに相当驚いたようだった。 だが彼らは『噂』に対して怒りを露(あら)わにし、彼女の味方になり、守ることを快諾してくれた。
「でも…どうして課長が、そこまでするんですか?」 「俺たちは付き合っている。『彼女』を守るのは『彼氏』の役目だが…守りきれない場合も考慮して、味方は多い方が良いと判断した」 「えぇっ!!」 「そんなぁ……」 「本当ですか!?」 「オレ、狙ってたのに〜〜」 「お前もか!?」
どうやら俺は、最大級の爆弾を投下したようだ。 …香織を狙ってる奴が、こんなに居たとは… だが、もう香織は俺の彼女だ。
「残念だったな」 俺は騒いでいる奴らに向かい、すました顔で言ってやった。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
終業のベルと同時に、彼女の席まで行く。
「抜糸が済んでも、しばらくは定時で帰ったほうがいいだろう」 言いながら、JOBノートの端に『俺も帰る。エレベーター前で待つ』と書くと 「はい。そうさせてもらいます」 と答え、その下に続けて『着替えたら行きます』と書いて…彼の顔を見上げてくる彼女。 そんな仕草がとても愛らしくて、つい微笑んでしまう。
…こうゆうのも、イイよな…
俺は心に温かいものを感じながら、営業課へと戻っていった。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
エレベーター前で、香織を待つ。 俺の姿を見つけたとき、彼女の表情は…どう変化するのだろうか。 …「ゆっくり来ればいい」と、言ってやればよかったかな…
俺は…仕事は別だが、プライベートで待たされるのが大嫌いだった。 女と待ち合わせをしても、5分経てば即、帰っていた。 だが今、俺は…香織を待っている。 人を待つのが、こんなに心を弾ませるものだとは知らなかった。 これなら1時間でも待てるか? いや、それは無理だな。じっと待っているのは性に合わない。 俺の方から香織に会いに行くだろうな…
「「清水課長、お疲れ様です」」 そんなことを考えていたら、徳田夫妻がやって来た。 「お疲れ様。…羽山さんは、まだ更衣室に居るのか?」 俺は徳田さんに聞き、「中に入って、様子を見てきてほしい」と頼んだ。 彼女は「入れ違いになっちゃったのね…」と言いながら歩き、その後を義人と俺が付いて行く。 あと20メートルほどで更衣室、というとき、
『イヤ ――――――――― !!!』
中から悲鳴が聞こえた。 「香織!?」 すぐさま徳田さんを抜いて走り寄り「開けるぞ!」と扉を開けた俺が見たのは、開発課の4人の女と……床に倒れて意識を失っている、最愛の女性。 左腕の包帯が切られ、まだ治りきっていない火傷痕が露わになり… 左足の包帯には血が滲み… その惨状に目を見張る。 「おまえら、香織に何をした!!」 怒鳴り声にビクッとした女の手から、ハサミが滑り落ち…更衣室の床に無機質な音を響かせた。 「香織ちゃんっ! …」 「君たち、なんてことを…」 遅れて入って来た徳田夫妻も、言葉を失っていた。
この女たちを殴ってやりたい! 言いたいことも山ほどある! だが… 「香織を病院に連れて行ってくる。後を頼んだぞ」 最優先事項は、彼女。
この場を義人に任せた俺は、香織を抱き上げて更衣室を後にした。 |
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