守りたい!(2)

(27.琢磨)

 

 

病室のベッドで眠り続ける香織を眺めながら、医師の言葉を思い出していた。

『傷口が開いてしまいましたね。こちらも少し残りますが…それは仕方がない、と思って納得していただくしかありません。綺麗に縫っていたのに、残念です…』

 

処置をしてもらっている間も、香織は目覚めなかった。

何故! 香織が、こんな目に遭わなきゃいけない!?

何故、こんなことに……

 

駆けつけた香織の母親に事情を説明した俺は、すぐさま会社へと戻った。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

社長室の扉をノックし、返事も聞かずに中に入る。そこには藤堂、藤島、義人が難しい顔をしてソファに座っていた。

「徳田課長、あの4人から事情を聞いたか?」

「ああ…」

 

義人の話を聞いているうちに、また怒りが込み上げてきた。

 

「あいつらの嫉妬と誤解と、思い込みが原因だと!? そんなくだらない理由で、香織をあんな目に遭わせたというのか!? 無理に動かした所為で縫った傷が開いてしまったんだぞ! 火傷の痕も…」

「清水課長…」

「徳田課長、あいつらをココへ連れてきてくれ! ぶん殴ってやる!!」

「それはできません。彼女たちも、今回のことは深く反省しています。僕も…彼女たちの上司として、責任を感じています。本当に、すみませんでした」

義人が頭を下げた。

「香織には傷跡が残るのに! あいつらは『お咎めナシ』って訳か!?」

「だからといって、それを実行するんですか? 女性を殴るつもりなんですか?」

「俺が大切なのは…守りたいと思うのは香織だけだ! それを、あいつらは…」

 

 

「彼女たちには辞めてもらう」

それまで黙って聞いていた藤堂が話し始めた。

「優秀なプログラマーである彼女たちを手放すのは、会社としても相当な痛手となる。だが…気を失った羽山さんが運ばれるのを見た者も多く、社員のほとんどが事件を知っている状態だ。彼女たちも、此処には居づらくなるだろうし…」

「やってしまった事に対しての『責任』てモンがあるしな…。なぁ俊介、彼女たちに刑事責任は問えないのか?」(藤島)

「それは警察に被害届を出してから、の話になるだろう」(藤堂)

「たぶん羽山さんは、出さないんじゃないかと思う。僕の優希と似てるから…」

「…かもな」

義人が『僕の優希』と言った途端に、藤堂が義人を睨んだが…無視して答えた。

 

 

 

「立て続けに酷い目に遭ってしまって…羽山さんには、本当に申し訳ないと思っている。俺個人としては、辞めないで此処に居てほしいんだが…。『こんな会社で働くのは嫌!』なんて言われちまうかもな…」(藤堂)

「それに関しては、本人の意思を尊重するつもりだ。香織が目覚めたら確認するが…抜糸が終わるまでは、会社を休ませてやってくれ」

「了解した」(藤堂)

「本当は、ずっと手元に置いておきたいが…」

「まさか監禁する気じゃないですよね?」

義人が、俺の顔色を窺(うかが)うように聞く。

「できるなら、そうしたいくらいだ」

「「「本気(マジ)!?」」」

「巻き込まれ体質とでもいうのか…こんなに危ない目に遭ってばかりだと心配で心配で、『目の届くところに居てほしい!』と思ってしまうのも仕方がないだろ?」

 

驚く3人をその場に残し、俺は病院へ戻った。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

まだ眠り続けている香織の顔を見ながら、先ほどの自分の言葉を思い出す。

お前が、俺のすぐ傍に居てくれたら…俺は安心して居られるんだがな…

「え?」

香織の母親に聞き返され…俺は初めて、独り言を口にしたのに気付いた。

そして…「まだ本人には、何も言ってないのですが……」と、話を切り出した。

 

母親の顔が…驚きの表情から、満面の笑顔へと変化していく。

 

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

「いえ、礼を言うのは俺の方です。了承していただいて、ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」

話が終わったときに、母親の口から出た言葉が…俺の胸に染みこんでいく。

互いに頭を下げてから、香織の寝顔に目をやる。

 

「ほんとうに…この子が…」

母親の目が潤んでいた。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

う…ン……

母親が帰ってしばらくしてから、香織が目覚めた。

「起きたか?」

…琢磨さん…? え、なんで…痛ッ!」

現状を把握していない彼女が慌てて身体を起こそうとして、再びベッドに沈む。

 

「動くんじゃない、此処は病院だ。傷口が開いたから、再度縫ってもらった」

香織の額や頬に掌を当てながら、そう言うと…彼女の目に涙が溜まってきた。

「…怖かった…」

 

震える彼女を抱きしめたくて、慰めたくて、俺も…ベッドに入った。

 

「同じ会社の、見知った人たちが…あんな事をするなんて思わなかった。…何を言っても、聞いてくれなくて…両腕をつかまれて…ハサミ、が……。必死に逃げようとしたんだけど、ダメだった…」

「そうだったのか…」

「私ね。まだ、現実を受け入れる勇気が無くて…腕の火傷は、ちゃんと見てないの。…見れないの」

「香織?」

「火傷が現れたときの、あの人たちの顔!! …ねぇ、これって…そんなに酷いの!? 思わず顔を背けたくなるような、そんな…」

「香織!」

俺はもう、それ以上聞いていられなくて…俺の胸に彼女の頭を押し付けた。

 

   医師からは「少し痕も残るが、目立たない」と言われていたんだ。

   包帯やガーゼを取りさえしなければ、酷くならなかった筈だ。

   無理に動かしたりしなければ、足の傷口も開かなかった。

   それを、あいつらは……くそっ!!

 

だが…怒りの矛先を向けるべき相手は、俺の前に居ない。

居るのは…腕の中で泣いている、最愛の女性だけ…

 

「なぁ香織…」

彼女の頭を押さえていた掌の力を抜いて、髪を撫でながら話した。

「俺は…その傷さえも愛しく思う。だからお前は、何も気にしなくていい」

「でも…」

「足の傷も、な。医師は仕方ないとして…そんな場所、俺しか見ないぞ?」

「え…!?」

驚いた顔で、俺を見上げてくる彼女。

 …そんなに目を見開いたら、目玉が落ちてきそうだな(笑)

 

指で涙を拭ってやり、彼女の額に口づけを落としてから…じっと目を見る。

 

「俺と結婚してくれ。一緒に生きてほしい」

「えっ! …ホント、に!? …私で良いの?」

「俺が自ら欲しいと願った女は、お前だけだ。お前しか要らない。…返事は?」

「あ…はい、お願いします。…嬉しい…」

彼女の目に、また涙が溜まってきた。

 

 

「嬉し涙は、何度でも流せばいい」

俺は、そう言いながら…再び泣き始めた香織を抱きしめていた。

 

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