あふれる想いを

(エピローグ)

 

 

病室のベッドの中でプロポーズされた私は、琢磨さんに包まれて『安心した』というのもあるけど…それまでの疲れもあって、あのまま泣きながら眠っちゃった。

あろうことか琢磨さんまで!

そんな私を抱きしめながら眠ってしまった…みたいなの。

 

 

抱き合って眠っていた私たちは、様子を見に来た看護士の悲鳴で目が覚めた。

 

個室だったんだけど…悲鳴を聞いて駆けつけた医師や看護士、他の入院患者(野次馬?)たちで病室が一杯になった。

大勢の人が見ている中。琢磨さんにしっかりと抱きしめられたままの私は、身動きも、首を動かすことさえもできなくって…

目の前には琢磨さんの胸しか見えない。だけど背中には、みんなの視線が痛いくらいに刺さってくる! ってゆうか…そんな状況で…

 …なんでこんなことになるの?

 

もう恥ずかしくって、顔だけじゃなくて全身が真っ赤! の私。

 

なのに琢磨さんったら「つい眠ってしまったな」な〜んて……落ち着いて言うの。

別段慌てる様子も無く、横になったまま乱れた髪の毛を手櫛で整えて…いたんだって。(後から看護士さんに聞いた話)

その姿にウットリ見とれている女性(看護士&患者)も多かったようで… 

 

消灯時間をとっくに過ぎているにも関わらず、なんか…凄い騒ぎになっちゃいました。(ごめんなさい!)

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

「プロポーズ、されちゃったんだ…」

他の人たちが病室から去り、琢磨さんが家に帰り……静かになった病室。

ベッドの中で横になっていると、今更ながらに実感が湧いてきた。

 

なんか…いろんなことを考えちゃう。

   本や映画みたく凝ってなかったな〜 とか

   夢見て想像してたのと違ってたな〜 とか

   現実は、こんな感じなのかな〜 とか。

まさか病院のベッドの中でプロポーズされるなんて思わなかったけど、でも…それに対する不満とかは何も無いの。

「こんなのもアリかな〜♪」なんてことを思ってしまう私って、変なのかなぁ。

 

嬉しい♪

とにかく嬉しい♪

でも問題が1つある。

 

私……掃除と洗濯できるけど、お料理できない!!

やっぱコレってマズイ…?

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

入院してから、今日で5日目。この前みたく、すぐ退院できると思っていたのに

「抜糸が終わるまで、このまま入院させてほしい」

という琢磨さんの強い要望により、私は…まだ退院できないで居る。 

彼曰く「心配で仕方がない」そうで…。

 

 

会社と同じ駅前に在る、この病院。

会社から歩いて数分の、この病院。

琢磨さんは毎日、出社前・昼休み・得意先に行く前・帰り・退社後…と、しょっちゅう私の病室に来てくれる。

それはそれで、とっても嬉しい。

優希ちゃん夫妻、社長・副社長、酉島さん…パンチャーのみんなも来てくれた。

 

だけど……面会時間が終わって独りになったとき、無性に寂しくなるの。

 

両隣の病室にも、向かいにも患者さんが居るのに

看護士さんだって、ちゃんと見回りに来るのに

なのに…

私だけが世間から隔離されているような

世界には私1人しか残って居ないような

そんな気がして

「寂しいな……」

 

口にした言葉に、余計に寂しくなって涙が出てきて…私は布団の中で丸くなって泣いていた。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

「香織? ………どうした!?」

病室の扉を開ける音には気付かなかった。

もう消灯時間になるのに、なんで…

 

「琢磨…さん?」

彼の声に驚いて、頬の涙を拭うのも忘れて…掛け布団から顔を出す私。

「傷が痛むのか?」

言いながら傍まで来た琢磨さんは、ベッドの中に入って私を抱きしめてくれた。

 

「…寂しいの。早く帰りたい……」

ふるふると首を横に振りながら、琢磨さんの胸で泣く。

彼は、何も言わずに抱きしめてくれるけど…呆れているかもしれない。

自分でも、我が儘を言ってるって…分かってる。

   私って、こんなに甘えん坊だったの?

   私って…こんなに寂しがり屋だった?

でも、どうしようもなく寂しいと感じているのは現実で。

彼に包まれていると、とても安心できるのも現実で。

 

「離れたくないの。独りにしないで…」

思わず口にした言葉に、彼の腕がビクッとなった。

「あ…今の、忘れて! …我が儘を言って、ごめんなさい」

慌てて彼から離れようとしたけど、…できない。

さっきより強く抱きしめられてるような…?

 

「我が儘は、俺の方だな」

 …え?

「俺の傍に置いておきたくて、目の届くところに居てほしくて…退院を延ばした」

「それって…私に、傍に居てほしいって…こと?」

「ああ。お前を泣かせてしまったが、な。…寂しい思いをさせて、すまなかった」

「…あのね。毎日、来てくれて…とっても嬉しいの。でもその時間が楽しかったぶんだけ、独りになった途端に寂しさが押し寄せて来て…不安で、眠れなくて…」

「…分かった。今夜だけ特別だぞ」

 

何が? という私の疑問をスルーして抱擁を解いた彼は、ベッドから降りて行く。

程なくして戻ってきた彼が、スーツの上着を脱いでベッドへ入ってきて…言った台詞にビックリした。

「『寝付けないようだから添い寝する』と言ってきた。これで邪魔されずに、ゆっくり眠れるだろ?」

 …わざわざ詰め所まで言いに行ってきた、の!?

 

そのおかげで…私は琢磨さんの腕の中で、朝までグッスリ眠れました。
(看護士さんや他の患者さんの目は、気にしない気にしない…)

 

 

 

やっと今日、抜糸。そして明日は退院♪

火傷も良くなってきたし…もう、嬉しくて嬉しくて…つい頬が緩んできちゃう。

 

「明日は退院だな。12時10分に迎えに来るから、正面入口で待っててくれ」

「はい」

琢磨さんには、そう答えたものの…頭の中は『?』マークでいっぱいだった。

前は病室まで来てくれたのに、なんで明日は『正面入口に12時10分』なの?

 …めちゃめちゃ目立つと思うんですけど?

 

まぁ…その理由は、翌日になって判明することになるんだけどね…

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

荷物をまとめて、病院の正面入口に立っている私。

その周りには…お世話になった医師や看護士さん、あの騒ぎで顔見知りになった患者さんに加えて…今から起こる『何か』を期待して集まってきた(!)人たち。

そして…なぜかウチの会社の面々も!

 …なんで!?

 

 

そんな中、琢磨さんの車が私の前に止まった。

運転席から出てきた彼は、大きな花束を持っていて……その派手な登場にビックリして声も出せない私。

周りの人たちも騒ぎ出す。

 

「香織、退院おめでとう」

と言いながら花束を渡した彼は、その花束ごと私を抱きしめて…深い深い口付けをした。

始めは恥ずかしかったんだけど、だんだん頭がぼうっとしてきて……何も考えられなくなってきた頃に、やっと唇が離れた。

 

「これで『貸し3』は無くなったな♪」

と言ってニヤッと笑う彼に、もう………

   私は、あの約束を思い出して真っ赤になって

   病院入口付近は、野次(?)や悲鳴で騒然となって

収拾がつかないほど、騒ぎはどんどん大きくなっていく…。

 

 

 

 

いつも眉間に皺を寄せていた彼。

笑顔なんて想像することもできなかった。

とても仕事に厳しくて、とっても怖い人だと思ってた。

だけど内面は優しくて、私に安心感を与えてくれて、とても頼りになる人。

こんな一面も持っているなんて、知らなかったけど…

あなたが好き。

大好き。

愛しています!

 

このあふれる想いを伝えたくて、私は…精一杯の背伸びをして、彼に口付けた。

 

 

― End.―

 

★ちょこっと後書き★
   漸く完結いたしました。励ましてくださった皆様に、深く感謝しております。本当にありがとうございます
   『可愛くて、年相応に見られなくて、でも一途に頑張る女の子』にエールを送ってくださり、とっても嬉しかったです
   続編も考えております。この先、もっと長い小説を書くかもしれませんが…今の所、この『bitter&sweet』が一番長いです♪

 

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