あふれる想いを(エピローグ)
病室のベッドの中でプロポーズされた私は、琢磨さんに包まれて『安心した』というのもあるけど…それまでの疲れもあって、あのまま泣きながら眠っちゃった。 あろうことか琢磨さんまで! そんな私を抱きしめながら眠ってしまった…みたいなの。
抱き合って眠っていた私たちは、様子を見に来た看護士の悲鳴で目が覚めた。
個室だったんだけど…悲鳴を聞いて駆けつけた医師や看護士、他の入院患者(野次馬?)たちで病室が一杯になった。 大勢の人が見ている中。琢磨さんにしっかりと抱きしめられたままの私は、身動きも、首を動かすことさえもできなくって… 目の前には琢磨さんの胸しか見えない。だけど背中には、みんなの視線が痛いくらいに刺さってくる! ってゆうか…そんな状況で… …なんでこんなことになるの?
もう恥ずかしくって、顔だけじゃなくて全身が真っ赤! の私。
なのに琢磨さんったら「つい眠ってしまったな」な〜んて……落ち着いて言うの。 別段慌てる様子も無く、横になったまま乱れた髪の毛を手櫛で整えて…いたんだって。(後から看護士さんに聞いた話) その姿にウットリ見とれている女性(看護士&患者)も多かったようで…
消灯時間をとっくに過ぎているにも関わらず、なんか…凄い騒ぎになっちゃいました。(ごめんなさい!)
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「プロポーズ、されちゃったんだ…」 他の人たちが病室から去り、琢磨さんが家に帰り……静かになった病室。 ベッドの中で横になっていると、今更ながらに実感が湧いてきた。
なんか…いろんなことを考えちゃう。 本や映画みたく凝ってなかったな〜 とか 夢見て想像してたのと違ってたな〜 とか 現実は、こんな感じなのかな〜 とか。 まさか病院のベッドの中でプロポーズされるなんて思わなかったけど、でも…それに対する不満とかは何も無いの。 「こんなのもアリかな〜♪」なんてことを思ってしまう私って、変なのかなぁ。
嬉しい♪ とにかく嬉しい♪ でも問題が1つある。
私……掃除と洗濯できるけど、お料理できない!! やっぱコレってマズイ…?
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入院してから、今日で5日目。この前みたく、すぐ退院できると思っていたのに 「抜糸が終わるまで、このまま入院させてほしい」 という琢磨さんの強い要望により、私は…まだ退院できないで居る。 彼曰く「心配で仕方がない」そうで…。
会社と同じ駅前に在る、この病院。 会社から歩いて数分の、この病院。 琢磨さんは毎日、出社前・昼休み・得意先に行く前・帰り・退社後…と、しょっちゅう私の病室に来てくれる。 それはそれで、とっても嬉しい。 優希ちゃん夫妻、社長・副社長、酉島さん…パンチャーのみんなも来てくれた。
だけど……面会時間が終わって独りになったとき、無性に寂しくなるの。
両隣の病室にも、向かいにも患者さんが居るのに 看護士さんだって、ちゃんと見回りに来るのに なのに… 私だけが世間から隔離されているような 世界には私1人しか残って居ないような そんな気がして 「寂しいな……」
口にした言葉に、余計に寂しくなって涙が出てきて…私は布団の中で丸くなって泣いていた。
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「香織? ………どうした!?」 病室の扉を開ける音には気付かなかった。 もう消灯時間になるのに、なんで…
「琢磨…さん?」 彼の声に驚いて、頬の涙を拭うのも忘れて…掛け布団から顔を出す私。 「傷が痛むのか?」 言いながら傍まで来た琢磨さんは、ベッドの中に入って私を抱きしめてくれた。
「…寂しいの。早く帰りたい……」 ふるふると首を横に振りながら、琢磨さんの胸で泣く。 彼は、何も言わずに抱きしめてくれるけど…呆れているかもしれない。 自分でも、我が儘を言ってるって…分かってる。 私って、こんなに甘えん坊だったの? 私って…こんなに寂しがり屋だった? でも、どうしようもなく寂しいと感じているのは現実で。 彼に包まれていると、とても安心できるのも現実で。
「離れたくないの。独りにしないで…」 思わず口にした言葉に、彼の腕がビクッとなった。 「あ…今の、忘れて! …我が儘を言って、ごめんなさい」 慌てて彼から離れようとしたけど、…できない。 さっきより強く抱きしめられてるような…?
「我が儘は、俺の方だな」 …え? 「俺の傍に置いておきたくて、目の届くところに居てほしくて…退院を延ばした」 「それって…私に、傍に居てほしいって…こと?」 「ああ。お前を泣かせてしまったが、な。…寂しい思いをさせて、すまなかった」 「…あのね。毎日、来てくれて…とっても嬉しいの。でもその時間が楽しかったぶんだけ、独りになった途端に寂しさが押し寄せて来て…不安で、眠れなくて…」 「…分かった。今夜だけ特別だぞ」
何が? という私の疑問をスルーして抱擁を解いた彼は、ベッドから降りて行く。 程なくして戻ってきた彼が、スーツの上着を脱いでベッドへ入ってきて…言った台詞にビックリした。 「『寝付けないようだから添い寝する』と言ってきた。これで邪魔されずに、ゆっくり眠れるだろ?」 …わざわざ詰め所まで言いに行ってきた、の!?
そのおかげで…私は琢磨さんの腕の中で、朝までグッスリ眠れました。
やっと今日、抜糸。そして明日は退院♪ 火傷も良くなってきたし…もう、嬉しくて嬉しくて…つい頬が緩んできちゃう。
「明日は退院だな。12時10分に迎えに来るから、正面入口で待っててくれ」 「はい」 琢磨さんには、そう答えたものの…頭の中は『?』マークでいっぱいだった。 前は病室まで来てくれたのに、なんで明日は『正面入口に12時10分』なの? …めちゃめちゃ目立つと思うんですけど?
まぁ…その理由は、翌日になって判明することになるんだけどね…
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荷物をまとめて、病院の正面入口に立っている私。 その周りには…お世話になった医師や看護士さん、あの騒ぎで顔見知りになった患者さんに加えて…今から起こる『何か』を期待して集まってきた(!)人たち。 そして…なぜかウチの会社の面々も! …なんで!?
そんな中、琢磨さんの車が私の前に止まった。 運転席から出てきた彼は、大きな花束を持っていて……その派手な登場にビックリして声も出せない私。 周りの人たちも騒ぎ出す。
「香織、退院おめでとう」 と言いながら花束を渡した彼は、その花束ごと私を抱きしめて…深い深い口付けをした。 始めは恥ずかしかったんだけど、だんだん頭がぼうっとしてきて……何も考えられなくなってきた頃に、やっと唇が離れた。
「これで『貸し3』は無くなったな♪」 と言ってニヤッと笑う彼に、もう……… 私は、あの約束を思い出して真っ赤になって 病院入口付近は、野次(?)や悲鳴で騒然となって 収拾がつかないほど、騒ぎはどんどん大きくなっていく…。
いつも眉間に皺を寄せていた彼。 笑顔なんて想像することもできなかった。 とても仕事に厳しくて、とっても怖い人だと思ってた。 だけど内面は優しくて、私に安心感を与えてくれて、とても頼りになる人。 こんな一面も持っているなんて、知らなかったけど… あなたが好き。 大好き。 愛しています!
このあふれる想いを伝えたくて、私は…精一杯の背伸びをして、彼に口付けた。
― End.― |
★ちょこっと後書き★
漸く完結いたしました。励ましてくださった皆様に、深く感謝しております。本当にありがとうございます
『可愛くて、年相応に見られなくて、でも一途に頑張る女の子』にエールを送ってくださり、とっても嬉しかったです
続編も考えております。この先、もっと長い小説を書くかもしれませんが…今の所、この『bitter&sweet』が一番長いです♪
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