聞きたいけれど

― 香織の葛藤・彼の心情  その1 ―

 

 

あの騒ぎのあと、私の家に向かった。

運転席の琢磨さんは、面白そうに笑っている。でも、私の心の中は……

 

 

「先に、お母さんに話をして許しを得た」と聞いたとき、胸の中がモヤモヤした。

   私にプロポーズするよりも先に、なんで母に言うの?

   そんな大事なこと、なんで当事者の私が後回しにされるの?

琢磨さんにプロポーズされて、とっても嬉しいのに…寂しいような悲しいような…変な気持ち。

 

そういえば…私たち、まだキスしかしてない。

一緒に寝たけれど、男女のアレコレなんて何も無かった。

それ以上のことは、皆無。

ただ、くっついて抱きしめられて眠っただけ。

私は安心できて、ぐっすり眠れたんだけど…琢磨さんは?

 …彼は、どうだったんだろう…

 

『寝付けないようだから添い寝する』って、普通は子どもに対して言うモノでしょ?

じゃあ私は、子どもと同等ってこと!?

女性としての魅力が無い、って……?

 

性行為云々ってゆうのは……

 …恥ずかしくって、ちょっぴり怖くて、でも好きな人とだったらイイな、って…

正直なところ、少し憧れもあるし…いろんな想像をしていた。

でも…

何も経験が無い私と、経験豊富な琢磨さん。

関係ないとは思っていても、『昔の彼女たち』の存在が気になる。

顔も見えない(たぶん会った事もない)人たちに嫉妬してる。

私よりもナイスバディ(古い?)であろう人たちが羨ましい。

 

 …こんな不安定な状態で、私は本当に結婚できるの!?

 

琢磨さんは…心も身体も、私の全部が『欲しい』って思ってくれてるんだよね?

まさか身体は他の、別の女の人の方が良いとか…じゃないよね?

琢磨さんは、どんな風に思ってるの?

本当に、私で良いの?

それとも私の身体のことなんて、どうでもいいとか…?

!!!

自分で勝手に考え付いた言葉に、ショックを受けて。

あ! と思ったときにはもう涙が浮かんでいた。

 

 …こんなに泣き虫じゃ、呆れられちゃう!

 

琢磨さんに気付かれないように

   窓の外の景色を見るフリをして

   髪を整えるように見せかけて

   さり気なく指で涙を拭う…

と、私には出来過ぎるくらいのことを一生懸命に考えて、行動に移したのに

 

「何故、泣く!?」

しっかりバレてしまっていて。家に着いてから、全部! 白状させられました。

 …彼には、隠し事は通用しないのね…

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

「よくもそんな馬鹿げたことを考え付いたもんだな」

 

琢磨さんからの『お小言』は、その第一声から始まって……延々と続いた。

それから彼曰く

   勿体無くて他の奴らに見せたくないほど、惚れている

   部屋に閉じ込めておきたいほど、俺だけを見てほしい

   文字どおり、結婚式が終わってから『初夜』を迎えたい…云々。

 

 

「まずは母親に認められてから、と思った。他意は無かったが…すまなかった。
…香織は、今まで付き合ってきた女とは違う。とても大切な女性だ」

 

彼の膝の上、という定位置で

彼に、じっと見つめられて…何も言えない私。

「まだ不安か?」

「…ううん、大丈夫」

「もう、くだらないことを考えるんじゃない」

と言う彼の口付けは、とても深くて…舌が私の口の中を自由に這い回って……

 

終わったときには手にも力が入らない状態で、くったりとなっていて。彼に身体を支えてもらっていなかったら…確実に膝の上から落ちていた、と思う。

 

 

「これでも我慢しているんだから、もう煽(あお)るようなことは言うな」

最後にポツリと言った彼の言葉に、私は声さえも出せず…コクンと首を縦に動かせて返事をした。

 

 

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