一番大切なモノ

― 香織の葛藤・彼の心情  その2 ―

 

 

「いつ琢磨さんの実家へ、ご挨拶しに行くの?」

と聞いたら、彼はとっても嫌そうな顔をした。

 

「そんなことをする必要は無い」

って言うんだけど…そんな訳にはいかないでしょ?

いくら「結婚は2人のことだ」って言っても…やっぱり家族とか親族とか…そうゆう繋がりも大切だと思うの。

 

私は祖父母の顔も名前も知らないし、親戚も知らない。

両親が…駆け落ち、したから。

だから余計に、そう思うのかも知れないんだけどね…

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

「どうして私には、おじいちゃんと、おばあちゃんがいないの?」

幼少の頃。不思議に思って、母に聞いたことがある。

すると母は「ごめんなさいね」って、悲しそうな顔をして……話してくれた。

「お腹の中には、もう香織が居たけど…結婚を反対されたから…家を出たのよ」

 

それ以来、もう聞くことはしなかったけれど…でも今、祖父母が存命であるなら、
私は…その人たちに会いたい!

父はもう居ないけど…私の結婚を機に、母と仲直りしてほしい!

 

そう思って、母に相談して…実家と連絡を取ってくれるように、お願いした。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

高校生のときから、ずっと独り暮らしをしている琢磨さん。

それから全く親には会っていないという。

たまにかかってくる親からの電話と、年賀状(これも親からのみ!)だけ、って…

 

「寂しくなかった?」

「別に」

「………」

でも…

「私たち結婚するんでしょ? なのに琢磨さんは、ご両親に知らせないつもり?」

「俺は…2人だけで式を挙げて、親には事後承諾で済ますつもりでいた」

「えっ、そんな…。結婚式は、親族だけが集まる簡素なものでいいから…ちゃんとしたいの。私の父と母は駆け落ちしたから結婚式を挙げてなくて、母はウエディングドレスも着てなくて…。だから私が着て見せて、って…ずっと思ってた…」

「香織…」

「ご両親に会わせて? 疎遠になっている事情も何も知らないけど、琢磨さんには気が進まないかもしれないけど、でも…『式に参列してください』ってお願いしたいの。…人を想う心って一番大切だと思うから……」

「…分かった。そろそろ親の顔を見ろ、ってことかもな…」

「ありがとう、琢磨さん」 

 

 

口に出して言うのは、ちょっと恥ずかしいから…今は心の中で言うことにします。

『私の一番大切な人は、あなたです』

 

 

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