一番大切なモノ― 香織の葛藤・彼の心情 その2 ―
「いつ琢磨さんの実家へ、ご挨拶しに行くの?」 と聞いたら、彼はとっても嫌そうな顔をした。
「そんなことをする必要は無い」 って言うんだけど…そんな訳にはいかないでしょ? いくら「結婚は2人のことだ」って言っても…やっぱり家族とか親族とか…そうゆう繋がりも大切だと思うの。
私は祖父母の顔も名前も知らないし、親戚も知らない。 両親が…駆け落ち、したから。 だから余計に、そう思うのかも知れないんだけどね…
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「どうして私には、おじいちゃんと、おばあちゃんがいないの?」 幼少の頃。不思議に思って、母に聞いたことがある。 すると母は「ごめんなさいね」って、悲しそうな顔をして……話してくれた。 「お腹の中には、もう香織が居たけど…結婚を反対されたから…家を出たのよ」
それ以来、もう聞くことはしなかったけれど…でも今、祖父母が存命であるなら、 父はもう居ないけど…私の結婚を機に、母と仲直りしてほしい!
そう思って、母に相談して…実家と連絡を取ってくれるように、お願いした。
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高校生のときから、ずっと独り暮らしをしている琢磨さん。 それから全く親には会っていないという。 たまにかかってくる親からの電話と、年賀状(これも親からのみ!)だけ、って…
「寂しくなかった?」 「別に」 「………」 でも… 「私たち結婚するんでしょ? なのに琢磨さんは、ご両親に知らせないつもり?」 「俺は…2人だけで式を挙げて、親には事後承諾で済ますつもりでいた」 「えっ、そんな…。結婚式は、親族だけが集まる簡素なものでいいから…ちゃんとしたいの。私の父と母は駆け落ちしたから結婚式を挙げてなくて、母はウエディングドレスも着てなくて…。だから私が着て見せて、って…ずっと思ってた…」 「香織…」 「ご両親に会わせて? 疎遠になっている事情も何も知らないけど、琢磨さんには気が進まないかもしれないけど、でも…『式に参列してください』ってお願いしたいの。…人を想う心って一番大切だと思うから……」 「…分かった。そろそろ親の顔を見ろ、ってことかもな…」 「ありがとう、琢磨さん」
口に出して言うのは、ちょっと恥ずかしいから…今は心の中で言うことにします。 『私の一番大切な人は、あなたです』 |
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