愛する人と共に(Wedding 顛末記 2)
日曜日。琢磨さんの車に乗って、彼の実家へ行く。 高速道路も使って…もう、40分くらい走ってるかな? 「あと10分ほどで着くが、…疲れたか?」 「ううん、大丈夫」 そう、『疲れ』てはいない。ただ、緊張しすぎて身体がガチガチになってるだけ。 「会わせて」と、お願いしたのは私なのに……
昨夜から胃が痛みだした。琢磨さんの車に乗ってからは、動悸がしてきた。 『彼氏の両親に会う』って、こんなに緊張するものなの!? 保育園で、園児の親と初めて会うときでも…こんな事なかったのに。 …なんで? なんで? なんで…? あ! 私…「琢磨さんの両親に、気に入ってもらいたい、好かれたい」って思ってる…。 そんな不安があるから胃が痛んだり、動悸がしたり……。 …なぁんだ、そっか…。そうだったんだ…
自分を良く見せようなんて、思っちゃダメ。いつもの私を見てもらおう。 それで気に入ってもらえなかったら……そしたら、何度でも会いに行こう。 そう、『今日が最初で最後』なんかじゃないもん。『これから』だもん。うん♪
吹っ切れた私は、やっと肩の力を抜くことができた。 それは運転席の琢磨さんにも、伝わったみたいで… 「やっと笑顔が出たな」 「えっ…心配してくれてたの?」 「まぁな。下手に声も掛けられずに、待っていた。……待ちくたびれたぞ」 「ごめんなさい。それと…待っててくれて、ありがと♪」
そうだよね…。琢磨さんに「大丈夫だ」なんて言われてたら、「全然分かってくれてない! 大丈夫じゃないもん!」って逆に言い返してたかも!?(怖い〜!) 琢磨さんの判断に感謝♪(無用な争いを避けられたことに感謝、なの)
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
一軒の家の前に、車を止める。 「此処だ」 車から降りた香織が…俺の声に誘われるように、家を見上げる。 「ガンバ!」と小さく言った香織が、両手を胸の前に持ってきて握り拳を作る。 俺も…心の中で同じように活(かつ)を入れてから、玄関の扉を開く。 「ただいま…」 15年振りに言えた。
家を出てからというもの、俺の方から電話を入れたことがなかった。 受話器を取った親父の声が震えていた。(俺は不義理な息子だったのか?) 家を出た(高校生だった)頃の俺は、「親なんて知るか!」と思っていたし、また、 だが妹や弟が生まれ、年月が経つにつれ…そういった感情はだんだんと薄れていき、俺も別段、気にも留めなくなっていたが… 「結婚することになった。今度の休みに、彼女を連れて行く」 そう言った途端に、親父に泣かれるとは思いもしなかった。
想像していた以上に老けた親父と母親。(俺が苦労をかけたのか…) その顔を見ていたら、15年の歳月をしみじみと感じる。 妹が中学3年生、弟が中学2年生。(少し俺に似ているような…?) 話には聞いていただろうが…初めて会った俺を見て驚いている。 俺たち家族が「どんな風に声をかけようか」と互いに探りを入れている中……
「えぇっと…このたび琢磨さんと結婚することになりました、羽山香織と申します。苦手なことが、たくさんありますけども、『何事も勉強だ』と思って頑張ります。どうぞ、よろしくお願いします♪」 言って頭を下げた後、ニッコリと微笑んだ香織。 その笑顔に、場の空気が一変した。
「まぁまぁまぁ、ご挨拶が遅れてしまって、ごめんなさいね?」 「いや〜 こんなに可愛い娘さんが、息子の嫁になるなんて…」 「…それで、あの…結婚式と披露宴に、出席していただきたいんですけど…」 「もちろんだよ!」 「喜んで♪」 「ありがとうございます! …良かった〜♪」 「香織…」
そんなに笑顔を振り撒くな! 俺の腹違いの弟が見惚れてるだろ! まったく……
香織の笑顔に魅了されてしまった、俺の家族。賑やかに、話も弾んで……… そんな中、俺1人だけが仏頂面をしていた。
もちろん弟には、後でキッチリと話しをつけておいた。(最初が肝心だからな!) |
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