愛する人と共に

(Wedding 顛末記 5)

 

 

≪琢磨vs香織の祖父≫

 

 

『孫のお披露目を兼ねての宴』の宣言どおり(?)披露宴の案内状だけでも膨大な数になっていった。

祖父の会社関係の人には祖父が、私たちの会社関係や友人には私たちが、それぞれ宛名を書いて送った。

返信ハガキの宛先は、全て祖父宅にして。

それから…二週間後。

祖母から「返信ハガキが揃ったから、こちらへいらっしゃい」と連絡を受けた私たちは、仕事帰りに祖父宅へ寄ることにした。

電話では「300枚程あったと思うのよね…」と聞いていたけれど、『見る』と『聞く』とでは大違い!

それを実際に目で確認したとき、私は心底驚いた。

 

 

「…こんなに!?」

「一応、出席と欠席には分けておいたぞ」

「…ありがとう、お祖父ちゃん……」

 

私はもうそれ以上、何も言葉が出てこなかった。

これを基にして出席者リストを作って席順を決めなきゃいけない、と思ったら頭が痛くなってくる。

でも……これは私たちの結婚式。

他の人に頼るなんてことは、したくない。

 

「大変だけど…私、頑張るね」

「これは俺がパソコンに入れておく。データを作成しておけば便利だろ?」

「そうね。住所録も作れるし、お礼状も書けるし…。琢磨さん、さすがだね♪
それじゃあ……あ、……ねぇ、お祖父ちゃん…」

「何じゃ?」

「社長さんの名前が、たくさんあるんだけど……どの人を上座にしたらいいの?
失礼のないようにしなきゃダメなのに…。私、何も知らなくて…」

「では教えてやろうかの」

 

 

その後、私たちは席順を決めるために…休日には祖父宅へ通うようになった。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

あれから一ヶ月が経過。

俺たちは相変わらず、休日になるとジイさん(香織の祖父)宅に通っている。

あの社長は―― もうじき身内になるが―― 業界では『素早い決断力が長所』と言われている、切れ者。

当然、社長連中の席順など即答できるはず。

それなのに………まだ決まっていない。

 

 

「なんだかんだと理由を付けて先延ばしにする、あの態度は何だ?」

「でも…今まで疎遠だった、っていうか……私とチィちゃんの存在も知らなかったのに、知った途端に『結婚します』でしょ? …だから祖父だって寂しいと――」

「それとこれとは話が別だ」

「分かってる、けど…」

「結婚したらもう会えない、とでも思っているのか!?」

 

ジイさん宅へと向かう車中。

積もっていたイライラが噴出して、責めるような言葉が口から出てしまった。

香織に当たっても仕方ないのに……な。

 

「すまん、つい…」

「ううん。もう決めなきゃいけないんだし…。お祖父ちゃんにも、ちゃんと話すね」

「…これから先、何度でも遊びに行く機会はあるさ」

「そうだよね。…ごめんなさい」

「何故、香織が謝る?」

「だって私の祖父が…」

「じきに俺のジイさんになるんだ、謝ることはない」

「うん。…ありがと♪」

 

 

話している内に到着した。

ジイさんに対しては『取引先の社長』という感覚が、まだ抜けきっていない俺。

だが身内になれば、その思考も切り替えられるだろう。

これからは遠慮なんてしない。

覚悟しろよ?

そう思いながら、香織とジイさんの話を聞いていると……ジイさんが俺の方をチラッとみて、意味深な笑みを送ってきた。

 …やはり、そうか…

 

 

ジイさん、ワザと俺たちを振り回していやがった。

俺は内心「この狸(たぬき)め!」と毒づきながらも、笑みを返してやった。

どうやら、このジイさんとは本音で話ができそうだ。

 

 

 

★『bitter&sweet』はランキングに参加しています★

 

 

 

← back    bitter&sweet TOP    next →

- An original love story -  *** The next to me ***

inserted by FC2 system