愛する人と共に(Wedding 顛末記 6)
≪結婚式当日の朝≫
「お母さん、いままでありがとう。私、結婚しても…ココの家の子、だよね?」 「ナニ言ってんのよ、カオちゃんてば……。そんなの決まってるでしょ!?」 「香織は、いつまでも私の子供よ。…何を改まって話すのかと思ったら…」 あなたは本当に、もう…… と言う母の目には、涙が溜まっていた。 それを見た私とチィちゃんが、もらい泣き。 羽山家の記念すべき朝は、そんな涙で始まった。
笑顔で「じゃあ、いってきます♪」と言って、この家を出るつもりだったのに…… 嫁いだからといって、親子の縁が切れてしまうことはない。 だけど… 私が帰る家は、琢磨さんの所(=『清水家』)になる。 この場所はもう、「ただいま」じゃなくなる。
呼び鈴を鳴らして「こんにちは」って言わなきゃいけないのかな…なんて思ったら、急に寂しくなってきて…。 つい、口から出ちゃったの。
ごめんなさい。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
…ようやく、今日という日を迎えることができた…
俺は婚姻届を出すために…久しぶりに電車に乗って、香織と共に役所へと向かっていた。 「結婚式の前に、二人で役所に届けたい」という香織の意思を尊重しているが…「一日でも早く入籍したい」という俺の想いが実る、記念すべき日。 俺は揺れに身を任せながら、香織と出会ってからの出来事を思い返していた。
「…泣いたのか?」 「うん。ちょっと…」 「何があった?」 「あの家にはもう『ただいま』って言えない…。そう思ったら寂しくなっちゃったの。私が帰る家は、琢磨さんと同じ家になるんだもん。…そうでしょ?」 「ああ、そうだな」 「『フツツカ者デスガ、ヨロシクオネガイシマス』」 「棒読みされると、違う言葉に聞こえるぞ。心を込めて言ってくれ」 「こんな所で!? …あとで、ちゃんと言うから…。だから今は――」
なぜか香織の目が、赤いような気がして…そっと声をかけてみた。 俺との結婚を後悔して泣いたのか!? という考えが一瞬、頭を過ぎったが…そうでは無かったようだ。
以前は『結婚』というモノに夢も希望も無く、嫌悪さえしていた俺。 なのに、それが今では…… 二人で始める新しい生活を、心待ちにしている。 香織だからこそ、こんな気持ちになれたんだと…本当に感謝している。
「ありがとう。そして…これからもよろしく頼む」 「私の方こそ…。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
入籍を済ませた後、俺たちは互いの目を見つめ合って微笑んだ。 |
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