愛する人と共に(Wedding 顛末記 8)
≪結婚式場にて≫
重厚な扉が、ゆっくりと開いていく。 私と祖父はバージンロードを歩む。 一歩一歩、確実に、琢磨さんへと向かって……
「バージンロードとやらを一緒に歩きたいのう」 祖父の一言で呆気なく決まったけど…実は私にとっても、その方が良かったの。 何故、って? それは私が………日本髪のカツラが似合わなかったの!(泣) 衣装合わせのときなんて、 祖母は「あらまぁ…」って言ったきり、黙ってしまうし… 母は「子供が日本舞踊を踊るみたいな…」なんて、ホントに言いたい放題。 腹を立てても仕方がないのは分かってる。 でも私の頭の中では「どーせ童顔ですよ!」って言葉がグルグルと回っていた。 さすがに店の人は、何も言わなかったけど…… …もしかして我慢してたのかなぁ…
そんなこんなで結婚式で1着、披露宴で2着、合わせて3着のドレスを選んだ。 でも琢磨さんは…私が結婚式でどんなドレスを着るのかは、まだ知らない…。
「何を考えておる?」 「琢磨さんは『綺麗だ』って思ってくれるかな、って…」 「この可愛いさが判らん奴に香織はやらん! と言いたいところなんじゃが… 「そうなの? 眼鏡をかけてないから、まだ見えないんだけど…だったら嬉しい。ありがとう、お祖父ちゃん。このホテルも何もかも、お祖父ちゃんが――」 「儂(わし)の古い友人が『是非とも此処で挙式と披露宴を』などと言うもんでな、此処に決めただけじゃ。色々とサービスさせたから、金額は気にするでない」 「でも…」 「知らなんだとはいえ、お前たちには何もしてやれんかったからの…。これも爺孝行だと思って、快く受けてくれ」 「…うん……」
祖父の腕に掴まって、小声で話しながら歩いていくと…だんだんと琢磨さんの姿が、ぼんやりと見えてきた。 琢磨さんも真っ白なんだ〜 と思っていると、顔の輪郭が判るようになってきて… 目が…… …あ、ホントだ…
手を伸ばせば触れるくらいの距離で、私の『目』と琢磨さんの『目』が合った。 琢磨さんの…あまりのカッコ良さにポーッとなった私は、祖父の腕から手を離してしまった。それも無意識に。 その途端に私は琢磨さんに引き寄せられ、力強く抱きしめられて…
「俺の天使。誰にも渡さない…」 耳の横で囁かれた琢磨さんの声に、言葉に……私は心臓を射抜かれた。 …こんなの反則だぁ…
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
重厚な扉が、ゆっくりと開いていく。 香織とジイさんの姿が現れた途端、俺の心臓は早鐘を打ったように煩くなった。
「まぁ…」 「あれは天使!?」 「ほぅ…」 「なんて可愛いんだ」 「まるで絵本から出てきたみたい…」
周囲から次々と聞こえてくる囁き声、そして溜息…。 綺麗な足を惜しげなく曝(さら)け出している香織に、「他の奴に見せるな!」と言いたくなってくるが…目が離せない。見入ってしまう。 …だから慎二は、あんなことを言ったのか…
俺は控え室での、慎二の不可解な言葉を思い出しながら香織を見つめていた。
「『天使は舞い降りて、悪の王に捕らわれた』…。俺たちは極上の馳走をオマエに差し出すことに合意した。これはアイツの望みだ、誰にも文句は言わせない」 「何を急に…。小説の一節でも諳(そら)んじているのか?」 「判らんのなら別に良い。あとはオマエに任せるから、じっくりと味わうように」 「味わう…(?)」 「食いすぎは禁物だぞ。返品も受け付けないからな、覚悟しろよ?」 「ソレは『食う』のに覚悟がいるのか? …まぁいいさ、受けて立とう」
意味を全く把握してなかったとはいえ…よくも「受けて立つ」なんて返答ができたものだなと、我ながら感心する。 それにしても慎二の奴、俺は『悪の王』だと!? …確かに香織は『天使』だが…
そんなことを考えながら、じっと香織を見つめていた。 だんだんと香織の目が、俺に焦点を合わせてきて……2人の目が合ったとき、 息をのむ俺。 香織の手がジイさんの腕から離れていく…… !!! 香織の体がフワリと浮いて、何処かへ飛んで行きそうな気配に焦りを感じた俺はその華奢な体を引き寄せると、力強く抱きしめた。
「俺の天使。誰にも渡さない…」 香織の耳元で囁いたのは、俺の本心。 周囲の雑音など耳に入らない。 感じているのは、この腕の中の温かい存在だけ…… |
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