愛する人と共に

(Wedding 顛末記 10)

 

 

≪披露宴にて≫

 

 

眼鏡ナシの私は琢磨さんの腕に掴まりながら、次々に言われたことをこなしていたけれど…披露宴も2時間を過ぎてくると、どうしても疲れが滲み出てくる。

祖父から関係会社の社長さんたちを紹介される頃には、誰が誰やら訳が分からなくなっていた。

でも隣の―― お色直しで着替えた黒のタキシード姿がとても素敵な―― 琢磨さんの存在が、そんな疲れを軽減してくれて…なんとか終えることができた。

それが新郎新婦の席に戻った途端に、緊張感が無くなってしまって……

 

 

 

「…はぁ…」

「おい、こんな日に新婦が溜息か!?」

「眼鏡ナシで歩くのが、こんなに大変だと思わなくて…ちょっと疲れちゃったの」

「しっかりと俺の腕に掴まっていれば問題ない」

「そうだけど、人の顔も見分けられないのは拙いと――」

「俺の顔を見ていろ。他は見なくていい」

「え!?」

何気に凄いことを言う琢磨さんに、驚いた。

「悪いか?」

「…悪くないです。でも…」

「まだ何かあるのか?」

「美味しそうなお料理が並んでいるのに、一口しか食べられないなんて…」

 

 

 

お色直しにケーキカット、キャンドルサービス、御祝いを言ってくれる人たちに笑顔で御礼を返す、エトセトラ……ここまでは普通の(?)披露宴で、よくある光景。

でも祖父が『孫のお披露目も兼ねての披露宴』と宣言していたとおり(!)、そちら関係の挨拶回りが大変で…。予想していた以上に時間がかかった。

始まってから、かれこれ3時間。そろそろ宴も終わりに近づいているというのに、私は料理を一口しか食べてない。

これじゃあもう食べるタイミングなんて無いと思ったとき、ハッと気付いた。

今まで気付けなかったけど…私って、お腹が空いたら愚痴っぽくなるの!?

 …こんな『新しい自分発見!』なんて、ヤダなぁ…

 

目の前に並んでいる豪華な料理を見ると、また溜息が出てきた。

 

 

 

「披露宴で料理をバクバク食ってる新婦なんて、いないぞ?」

「それは知ってるけど…」

「あとでルームサービスを頼んでやるから、とりあえず今は我慢しろ」

「……はぁい…」

「不服そうだな」

「これ全部、折詰にして持って帰りたい」

「香織……」

「だって、せっかくのお料理なのに…今日のために作ってもらったのに…」

「……分かった。スタッフの人に頼んでおく」

「ありがとう琢磨さん。…我が儘で、ごめんなさい…

 

こんなことを言う人なんて、いないのかもしれない。でも私は……

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

香織を抱きしめて深いキスをするとき、いつも眼鏡を外してやる俺。

その素顔は、とても可愛くて…「他人になんて見せられるかよ」というのが本音。

だが今、彼女は―― 素顔を全て曝け出して化粧をし、髪を結い上げて項を見せ、綺麗なドレスを身に纏い、優しい笑みを浮かべて―― 最高に輝いている。

俺のために装っているのは、充分に理解しているが……腹が立つ。

香織に見惚れる不埒な男が居ても仕方無い、とは思うが……腹が立つ。

ジイさん関連の社長の中に、いやらしい目で香織を見てくる奴が居ればもう……殴ってやりたくなる。

 

大声を出して「見るな!」と言いたくなる衝動を抑えながら…俺は香織と共に、ジイさん関連の挨拶回りをしていた。

だが隣で俺の腕をしっかりと掴んでいる香織の存在が、そんな俺の苛立ちを軽減させてくれて…予想以上に時間を取った挨拶も、無事に終えることができた。

 

 

 

「…はぁ…」

席に戻った途端に、香織の口から普段は聞くことのない溜息が出た。

俺自身もホッとしたのは事実だが、それにしても……

「おい、こんな日に新婦が溜息か!?」

「眼鏡ナシで歩くのが、こんなに大変だと思わなくて…ちょっと疲れちゃったの」

なんだ、そういうことか。

「しっかりと俺の腕に掴まっていれば問題ない」

「そうだけど、人の顔も見分けられないのは拙いと――」

「俺の顔を見ていろ。他は見なくていい」

「え!?」

お前の目には、俺以外の男なぞ映さなくていいんだ。

「悪いか?」

「…悪くないです。でも…」

「まだ何かあるのか?」

「美味しそうなお料理が並んでいるのに、一口しか食べられないなんて…」

「披露宴で料理をバクバク食う新婦なんて、いないぞ?」

 

その後も、香織と話したが…彼女の発想には、いつも驚かされる。

どこに『これ全部、折詰にして持って帰りたい』などと言う新婦が居るだろうか?

だが香織の要望を叶えてやりたいと思った俺は、スタッフに頼むことにした。

 

「ありがとう琢磨さん。…我が儘で、ごめんなさい…

「謝るな」

「あのね、私たちが結婚して初めて一緒に食べるお料理なのに一口だけ食べてポイだなんて…そんなのイヤだったの。だから、嬉しい…。本当にありがとう」

 

頬を染め、俯きながら言う香織。

その予想もしなかった言葉に、更に驚かされたが……何故か俺も嬉しかった。

 

 

 

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