愛する人と共に(Wedding 顛末記 その後)
ふと目を開けると、そこは知らない部屋のベッドの中だった。 慌てて腕時計を見てみると……10時半!? 「あぁぁっ!!」 「…ん…どうした?」 「門限10時なのに! 早く帰らないとチィちゃんに叱られ――」 「おい!!」 「!!」
凄い力で両腕を掴まれ、起き上がろうとしていた体がベッドに押さえつけられる。 至近距離には琢磨さんの怒った顔。 「今更『実家に帰る』とでも言うのか!?」 「え? あ、……」
そこでハッキリと目が覚めた。 入籍したのも、結婚式を挙げたのも、皆から祝福されたのも、披露宴でのことも全部、夢じゃなかったんだ!
「寝ぼけてた……」 「まさかとは思っていたが、ここまでとはな…」 琢磨さんの顔が、呆れた表情へと変化していく。 『彼に、こんな顔をさせてしまった私』『結婚したのに、あんなことを口走ってしまった私』が本当に情けなくて、自己嫌悪に陥って…彼の顔を見れなくなってきて… 「……ごめんなさい…」 私は目を逸らして謝罪の言葉を口にした。 すると突然、彼の雰囲気がガラリと変わった。 …!?
「俺を此処に残して、香織は実家に戻るのか」 「そんなことしない!」 驚いて視線を戻すと、さっきよりも強い力で体を押さえつけられてしまった。 「こんなに広いベッドだと、独りで寝るのは寂しいな」 「しない、のに…」 私は標本のように、ベッドに張り付けられてしまって…身動きもできない。 「今から女でも呼ぶとするか」 「!!!」
いつものように優しい目で見つめてほしいのに、甘い言葉を囁いてほしいのに…彼は冷たい目で私を見下ろしながら、酷いことを言う。 その表情に言葉に、胸が切り裂かれたみたいで…痛くて痛くて…
「…ねぇ、意地悪言わないで…お願い…」 「誰がいい?」 「呼んじゃイヤ――」
とうとう私は耐え切れなくなって泣き出した。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
「すまん、本当に悪かった…」 俺はベッドの中で―― 子どものように泣きじゃくる妻を胸に抱き、その頭や背中を撫でながら―― 懸命に謝っていた。
発端は、妻の一言だった。 『門限』『早く帰らないと』の言葉に、穏やかだった気持ちが一気に吹っ飛んだ。 今日の事は全て無かったことにする気なのか!? と…俺は、どん底に突き落とされるほどの衝撃を味わった。 寝ぼけていたことを知って、呆れながらも安堵したのだが…妻は謝るとき、意図的に俺から目を逸らした。 その態度が『本当は悪いとは思っていないけど、とりあえず謝っておこうか』と…そんな風に見えたから、俺は……… 腹を立て、大人気ない態度をとってしまった。 居もしない女の存在をチラつかせて不安を煽り、傷つけ、泣かせた…。
彼女は愛しくて愛しくて…『優しくしたい、守りたい、失いたくない』と思う存在だ。だがそれと同時に『いじめたい、泣かせたい』という気持ちも確かにある。 『好きな子をいじめたい』って…俺の感情は小学生のガキ並みなんだろうか。 こんな俺を、妻は許してくれるだろうか。 …許してもらわなくては非常に困るんだが…
☆
「香織…」 「………なぁに?」 漸く泣き止んだ妻に話しかける。 まだ俺の胸に顔を埋めたままだったが…何とか返事をしてくれた。
「泣かせて…すまなかった」 「……誰も…呼ばない?」 「他の女など、最初から居ない」 「ホントに?」
弾かれたように顔を上げた妻が、俺の顔色を窺うように見つめてくる。 不安げな眼差しで尋ねてくる様子に、心が痛む。
「ああ、お前だけだ。俺を…許してくれるか?」 「…はい。でも…」 「ん?」 「お願いだから…もう、あんなこと言わないで」 「二度と言わない、約束する。それから…」 妻の瞼にキスを落としてから続ける。 「香織も。二度と俺から目を逸らさなと、約束してくれるか?」 そう言うと、思い当たる所があったのだろう。香織の体が反応した。 「自分が情けなくて、自己嫌悪で、だから……見れなかったの。ごめんなさい」 「そうだったのか……」
それから俺たちは互いに思っていたこと、感じていたことを話し合った。
「不安は無くなったか?」 「うん、大丈夫」 「では、これから…お前のカラダを堪能させてもらおう」 「え!?」 「『新婚初夜』といえば、することは一つ。だろ?」
何も言えず真っ赤になった妻に深いキスをしながら、互いの服を剥いでいく。 初めて男の前に曝される体は、とても綺麗だった。まるで新雪に足を踏み入れるときのような…そんな気持ちになってくる。 丁寧に手でなぞり、唇で辿り、舌を這わせていく……。 あえて避妊はしなかった。 妻の反応が新鮮で、嬉しくて……… くったりと動かなくなるまで攻めてしまった。 今まで我慢していた反動なのか、手加減など全くできなかった。
香織の笑顔は、誰でも見れる。 だが他は―― 泣き顔も、拗ねた顔も、艶やかな表情も、甘い喘ぎ声も―― 全て俺のモノだ。誰にも渡さない。見せてなんかやるものか! そして、ふと気付く。「女に対して、こんなに執着したことなど無かった…」と。 やはり『香織だから』ということなのだろう。 …それしかないな…
指さえも自分で動かせない妻に声をかけ、抱き上げて浴室に連れて行き…再びベッドの上へ。 そして俺は今、ベッドヘッドに凭れながら妻を膝に乗せて…折詰にしてもらった料理を、食べさせてやっている。 「ありがとう琢磨さん。これ、美味しい…」 『動けなくなった元凶』の俺に、御礼を言いながら微笑む妻が可愛くて愛しくて…
どうやら俺は、妻に甘い夫になりそうだ。
― End.― |
★ちょこっと後書き★
漸く『Wedding 顛末記』が完結いたしました。励ましてくださった皆様に、深く感謝しております。本当にありがとうございます
今後も2人は話し合いながら未来を築いていくことでしょう。そして琢磨さんはもう『甘い夫決定♪』ですよね?(笑)
≪結婚編≫はリクエストもいただきましたので、子供を交えての話も考えております(まだ先になりますので、お待ちくださいね)
それから…気付いた方も居られるでしょうが、小山内由紀(『恋人の条件』)と香織は短大からの親友、という設定でした
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