出会い/恋 (過去)(1.尚吾)
【……京急▼○線、落雷事故のため運休。復旧の見込みは未定……】
「覚悟はしていたけど…凄いな」 男は電光掲示板を一瞥すると、混雑している改札口を見ながら呟いた。 朝のラッシュ時。 普段は京急▼○線を利用している人々が、この駅に流れてきて…通常の倍、いや3倍近くの人間が蠢いているような状態だ。 これから乗る窮屈な車両を思い浮かべて溜息を一つ吐くと、男は定期を通してホームへと向かった。
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男の名は、酉島尚吾(とりしま しょうご)。24歳。 外資系保険会社の営業マンである彼は、類稀なる人間観察力を持ち…それを仕事に活かしている。 顧客それぞれに合った商品を提案し、その評判も良い。営業成績も上位の方だったりする。 就職2年目にして、この優秀さ。 彼は「営業のホープ」と言われ、社内でも有望視されていた。
尚吾は幼少時から、とても聡い子だった。 人と話すときには、必ず相手をじっと見る子だった。 そして表情や仕草を観察し、その人物像を当てるのが好きな子でもあった。
尚吾が小学校1年生のときに母親が病で亡くなり、2年後に父親が再婚した。 継母は優しい人で、とても可愛がってくれたが…尚吾は、実母のように甘えることができなかった。 新しい母親が嫌い、という訳では決して無かったのだが…… 弟や妹が生まれてからは、一定の距離を置くようになってしまった。
早くも自立した尚吾は、好奇心旺盛な子に育ち…その人間観察力に、さらに磨きがかかることになる…。
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階段に足をかけようとしたときに、怒声が耳に入ってきた。 「遅刻するじゃないか!」 「早く行かなきゃダメなのに!」 「駅員は何やってんだ!」 口々に喚いている。
(そんなにイラつくなよ…) 尚吾は、うんざりしながら声が聞こえた方へ目を向けた。 電車に乗り込もうとする者、電車から降りてこようとする者が入り乱れ、階段上部付近では人が溢れかえっていた。 階段も『上り』『下り』と左右に分けて表示されているのに…。個々が「我先に!」と、自分の事しか考えずに行動している。 (こんなときこそ、きちんと守るべきじゃないのか!?)
と、そのとき周囲の空気が変わった。 !!!!
階段の上から落ちてくる人々が、スローモーションのように見えた。 |
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