再会/真相 (現在)

(4.尚吾)

 

 

尚吾は、ずっと考えていた。

この先、綾女と仕事をするためには何をどうしたらいいのか―― を。

大人だから、綾女との間には何事も無かったかのように振る舞うことはできる。

表面上は、どのようにでも繕うことはできる。

だが己は―― 一体、彼女に何を望んでいるのだろうか。

(仕事のみの繋がりなのか、それとも以前の関係に戻りたいのか…)

 

 

彼女にとっては『裏切り者』の己の顔など、見たくもないだろうし…本音を導き出すことは尚更、難しいだろう。

それでも彼女の心に在るモノを吐露させなくてはいけない、と尚吾は思う。

たとえそれが非難の声であっても、正面から受け止めなくてはならない。

仕方がなかったとはいえ、己も傷つけたのだ。綾女を……

 

少しでも彼女を楽にしてあげたいと思うのは、傲慢なんでしょうか…

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

尚吾は、面接官用の姿―― 地味なスーツに黒縁眼鏡、七三分けの髪―― で、綾女と対面した。

採用された者達は皆、『普段の尚吾』との、あまりの違いに驚くのだが…

その姿でニッコリと微笑みながら「どうぞ」と促せば、想像以上に相手から話を引き出せることが判明して以来、尚吾は―― 面接では『好感の持てる、落ち着いた雰囲気の40代』になるのだ。

 

 

「どうぞ、お掛けください」

尚吾の言葉に、綾女は激しく動揺したようだった。

(まだ私の声を覚えている、ということですか…)

 

それなら、と尚吾は早々に自分の正体を明かすことにした。

 

「人事課長の酉島尚吾です。……お久しぶりですね」

…嘘…

綾女の顔から血の気が引いていった。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

綾女は青白い顔で立ちつくし、それから………長い沈黙が続いた。

「また会えるとは…正直、思っていませんでした」

 

その沈黙を破って尚吾は話し始めた。

未だに衝撃から立ち直れない綾女に向かって

冷たい態度と口調で、攻撃的な言葉を投げつけていった。

 

「………」

「…どうして黙っているんですか? 私に言いたいことは何もない、と?」

「………」

「ねぇ大道寺さん、何か仰ってくれないと分かりませんよ?」

 

そして綾女は………

 

…どうして…どうしてそんな平気な顔で話せるの!?」

「…大道寺さん?」

「私を捨てて行ったくせにっ!!」

 

尚吾に乗せられて、今まで我慢していたモノを吐露し始めた。

 

「あなたのことを恨んだわ! どうして黙ってアメリカに行ったの!? 『好き』も『愛してる』も全部嘘だったの!? 信じた私がバカだったの!?」

 

綾女の姿が、言葉が、流す涙が痛々しい。

 

「あなたに裏切られて…それでも私、あなたのことが嫌いになれない…。本当にバカよね……」

「大道寺さん、もう…」

 

態と刺激して怒らせて、綾女の本音を吐露させる方法をとった。

だが……

果たして、これで良かったのか!? …と不安になってきたとき、

それは剣(つるぎ)のように尚吾の胸を突き刺した。

 

「ねぇ、どうして前みたいに『綾女』って呼んでくれないの? もう私のことは嫌いになった? …他の男に抱かれた女は要らないって――」

「言うな!!」

「っ!!」

 

 

綾女が、自身を貶める言葉など……

そんなもの、聞きたくなかった。

尚吾は、怒鳴り声に身を竦ませた綾女を胸に閉じ込めるように、かき抱いた。

(私は……)

 

 

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