思慕?恋慕

(優希side)

 

 

12月に入った。

私は相変わらずの毎日を送っていたんだけど…なんか最近、係長の様子がおかしい気がする…

 

 

仕事は一応ちゃんとしてるんだけど…なんて言ったらいいか…キレが無いとゆうか…いつものキリッとした雰囲気が無いの。

どうしたのかな?

なんか悩みでも?……って、私が相談に乗れる…ワケないか……

なんて考えてたら、明日が提出期限の種類をミスった。

ダメダメ!

もう係長のことを考えるの、ヤメなきゃ。

自分でナントカする…でしょ?うん、そうに違いない。

 

私はそう決め付けて、仕事を再開した。

 

 

「やっとできた〜♪」

今何時?……えッもう9時!?

ウソでしょ?

こんなに集中して仕事してたんだ………。

いけない!

早く帰らなきゃ…

 

「できたか?」

「キャッ」

 

ビックリした〜

背後から声をかけないでよぉ〜〜

思わず飛び上がっちゃったじゃないの!

 

「『キャッ』とは、何だ?僕も、そっちの席で仕事してたんだけどねぇ…」

係長ぉ〜〜……お願いですから、脅かさないでくださいぃ〜

それに、眉間にシワ寄せないでください。

なんか…眼鏡の奥の眼も光って見えて、怖さが倍増されてるじゃないですか。

一緒に残業してたの、忘れてたことは謝りますから…

「…すみません」

「本当に君は…夢中になると周りが見えなくなるんだな」

「はい…(…よくご存知ですね。でも、どうして知ってるんだろ…)」 

「さ、早く片付けて降りよう」

 

係長と2人だけでエレベーターに乗るのって、初めてで…ドキドキして緊張する。

こら心臓、静まれ!

 

「もう遅いから、僕の車で家まで送って行くよ」

ビックリして、思わず隣にいる係長の顔を見上げた。

「えッ!?そんな…。まだ電車もありますし、大丈夫ですよ?」

そうですよ、男性の車に乗せてもらうなんて…お兄ちゃんに知られたら大騒ぎになります、ってば。

「遠慮しなくてもいいよ。それに…こんな時くらいしか、じっくり話せないしね?」

「話…ですか?」

「そ。君は課内の飲み会には、あまり参加しないだろ?」

 …だって…いろいろバレたら困るんだもん…

 

酔った勢いで、つい口が滑った…なんてことにならないように、いつも緊張してるのよ?

どーしても、ってときだけ参加してるけど…ホントは行きたくないんだから…

「家庭の事情で、あまりそういうのはダメなんです」

「ふ〜ん、家庭の事情ねぇ……。上司としては、そこのところも聞いておきたいな」

「え…」

なんで?

『家庭の事情』って聞いたら、普通は「そうなんですか」で終わるんじゃないの?

上司って、そこまで部下を気に掛けるものなの?

 

あーだ こーだ考えてたら、1階に着いてしまった…。

 

「じゃあ僕は車を持ってくるから、ここで待ってること。いいね」

係長…あの〜…えっと…

人の返事も聞かないで、サッサと行っちゃわないでくださいぃ〜〜

 

 …仕方ないか…

 

結局、私は係長の車に乗ることになってしまった。

それが…あんな大変なことになるなんて…思わなかった……

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

「さ、乗って」

係長が運転席に座ったまま、中から助手席のドアを開けてくれた。

 …助手席に座れってこと…ですか?

 

「早くして」

「!…はい…」

躊躇していたら、急かされた。

係長の隣に座ってはみたものの ―― 助手席に座るのは、父や兄の車くらいなもので ―― こんなの初めて。

庸一さんの車に乗る時だって、後部座席に座るのに…。

シートベルトをしていても、なんか落ち着かない。

運転している係長の横顔を、気づかれないようにチラチラ見ていると…アレコレ考えてしまう。

 

ホントにいいのかなぁ…

此処って、彼女の指定席…だよね?

やっぱ彼女さんとか…居る…よね?

こんなの、彼女さんに悪い…よね?

 

彼女さん……

小さな声で、つぶやいてみたら

胸にトゲが刺さったみたいにチクッとした。

やっぱり私、係長のことが好きなんだ……。

いつも職場で会えて、一緒に仕事ができて、楽しくて…とても気になる人で、

ただ「憧れの人」とばかり思ってた。

あれは淡い初恋だったんだと、もう過去形なんだと思ってた。

けど…居るかもしれない彼女の存在を考えただけで胸が痛む、ということは…

係長のことが「好き」っていうことなんだ、と…

初めて会った日からずっと「好き」だったのかもしれない、と…

そう確信した。

 

ようやく自分の気持ちを確認することができたけど、この先は…どうしよう。

係長は私のこと、全然覚えてないみたい。

大学時代の話も、兄の話も、な〜んにも出てこないもん。

兄も…私のこと、係長に話さなかったのかなぁ。

同じ職場に居ることは知ってるハズなのに、なんでだろ?

「覚えてますか?あの日、兄と一緒に…」

なんて…そんな話できないよ…

 

どうしたら…いい?

 

 

 

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