焦燥$衝動

(義人side)

 

 

「まさか彼女が!?」

 

偶然というのは恐ろしい。

僕は二日続けて、彼女(=池永さん)の隠れた一面を見てしまった。

あんなに真面目に仕事をしているのに!?

あれはカモフラージュなのか!?

大の男を、2人も手玉に取っているのか!?

 

考えれば考えるほど、訳が分からなくなってくる。

明るくて聡明な彼女のイメージが、音を立てて崩れていく…

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

あの日。僕は池永さんが帰宅して間もなく、帰り支度を始めた。

そしてエレベーターを降りて、目にしたのは…仲良く寄り添う、池永さんと藤島。

「優希ちゃん」

「庸一さん」

と呼び合う2人は、まるで恋人同士のようだった。

 …副社長のスケジュール管理をしている内に、付き合うようになったのか?

 

そのときは、そう思って2人を見送った。

なのに翌日…僕は、社長が背後から彼女を抱きしめているのを見た。

 

「優希」

藤堂は、呼び捨てにしているのか!?

「バレちゃうよ?」

何がバレるというんだ!?

Tホテルに行く、だと!?

君は一体………

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

あれから池永さんのことが気になって、仕事が捗らない。

 

   彼女は、どういう女性なんだ?

   同じ会社の社長と副社長、二股かけているのか?

   藤堂と藤島は、彼女の本性を知っているのか?

 

下手に聞いて、もし2人が何も知らなかったら…最悪、この会社が潰れてしまうかもしれない!そう思った僕は…

友人たちに聞くこともできず、悶々とした日々を送っていた。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

その日。ちょうど良い具合に、池永さんと2人だけで残業することになった。

僕は彼女に話をする機会を窺いながら、仕事をしていた。

そして…

「家まで送るから」と強引に話を進め、彼女を僕の車に乗せることに成功した。

 

車を運転しながら、どんなふに話を進めていこうかとアレコレ考えていたが

時間ばかり過ぎていっても仕方がないと思い直して…重い口を開いた。

「君は………。単刀直入に言おう。君は…社長と副社長とは、いったいどういう関係なんだ?」

彼女が驚いて、僕の横顔を凝視した。鋭い視線を感じる。

 

「……どうして、そんなこと…聞くんですか?」

「君は誕生日の日に、社長と仲良く帰っていた。その前日には副社長と…。これはどういうことなんだ?」

 

彼女は黙って…何か考えているようだ。

 

「…社長と副社長は、何と仰ってましたか?」

「そんなこと聞けるワケないだろ!…僕は君の口から聞きたいんだ!」

「お二方が何も仰らないのなら、私の口からは何も答えられません」

「何故!?」

「……そういう約束だからです」

 …開き直るつもりなのか!?

 

「ですから…これ以上のことは、何も申し上げることはできません」

「社長は…いや藤堂は、君と藤島のことを知っているのか!?そして藤島は、君と藤堂のことを知っているのか!?」

 

それっきり、彼女は…黙り込んでしまった。

 

「同じ会社の社長と副社長を、二股かけるなんて……君は…いったい何を考えているんだ!?」

ここまで言っても、まだ口を開かない。

じゃあ僕の考えが当たっていた、ということなのか?

とんでもない女性だ!

好感を持っていたのに…騙された…。

藤堂と藤島も、彼女に騙されていたのか……

僕たちは、こんな若い女性に嘗(な)められていたのか!?

男を手玉に取るなんて…なんて女なんだ!

 

怒りが湧いてきた。

(少しは男性の怖さを思い知ればいいんだ!)

そう思ったときにはもう、公園の前で車のエンジンを止めていた。

 

 

僕はシートベルトを外し、彼女に覆い被さった。

 

 

 

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