焦燥$衝動(義人side)
「まさか彼女が!?」
偶然というのは恐ろしい。 僕は二日続けて、彼女(=池永さん)の隠れた一面を見てしまった。 あんなに真面目に仕事をしているのに!? あれはカモフラージュなのか!? 大の男を、2人も手玉に取っているのか!?
考えれば考えるほど、訳が分からなくなってくる。 明るくて聡明な彼女のイメージが、音を立てて崩れていく…
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あの日。僕は池永さんが帰宅して間もなく、帰り支度を始めた。 そしてエレベーターを降りて、目にしたのは…仲良く寄り添う、池永さんと藤島。 「優希ちゃん」 「庸一さん」 と呼び合う2人は、まるで恋人同士のようだった。 …副社長のスケジュール管理をしている内に、付き合うようになったのか?
そのときは、そう思って2人を見送った。 なのに翌日…僕は、社長が背後から彼女を抱きしめているのを見た。
「優希」 藤堂は、呼び捨てにしているのか!? 「バレちゃうよ?」 何がバレるというんだ!? Tホテルに行く、だと!? 君は一体………
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あれから池永さんのことが気になって、仕事が捗らない。
彼女は、どういう女性なんだ? 同じ会社の社長と副社長、二股かけているのか? 藤堂と藤島は、彼女の本性を知っているのか?
下手に聞いて、もし2人が何も知らなかったら…最悪、この会社が潰れてしまうかもしれない!そう思った僕は… 友人たちに聞くこともできず、悶々とした日々を送っていた。
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その日。ちょうど良い具合に、池永さんと2人だけで残業することになった。 僕は彼女に話をする機会を窺いながら、仕事をしていた。 そして… 「家まで送るから」と強引に話を進め、彼女を僕の車に乗せることに成功した。
車を運転しながら、どんなふに話を進めていこうかとアレコレ考えていたが 時間ばかり過ぎていっても仕方がないと思い直して…重い口を開いた。 「君は………。単刀直入に言おう。君は…社長と副社長とは、いったいどういう関係なんだ?」 彼女が驚いて、僕の横顔を凝視した。鋭い視線を感じる。
「……どうして、そんなこと…聞くんですか?」 「君は誕生日の日に、社長と仲良く帰っていた。その前日には副社長と…。これはどういうことなんだ?」
彼女は黙って…何か考えているようだ。
「…社長と副社長は、何と仰ってましたか?」 「そんなこと聞けるワケないだろ!…僕は君の口から聞きたいんだ!」 「お二方が何も仰らないのなら、私の口からは何も答えられません」 「何故!?」 「……そういう約束だからです」 …開き直るつもりなのか!?
「ですから…これ以上のことは、何も申し上げることはできません」 「社長は…いや藤堂は、君と藤島のことを知っているのか!?そして藤島は、君と藤堂のことを知っているのか!?」
それっきり、彼女は…黙り込んでしまった。
「同じ会社の社長と副社長を、二股かけるなんて……君は…いったい何を考えているんだ!?」 ここまで言っても、まだ口を開かない。 じゃあ僕の考えが当たっていた、ということなのか? とんでもない女性だ! 好感を持っていたのに…騙された…。 藤堂と藤島も、彼女に騙されていたのか…… 僕たちは、こんな若い女性に嘗(な)められていたのか!? 男を手玉に取るなんて…なんて女なんだ!
怒りが湧いてきた。 (少しは男性の怖さを思い知ればいいんだ!) そう思ったときにはもう、公園の前で車のエンジンを止めていた。
僕はシートベルトを外し、彼女に覆い被さった。 |
- An original love story - *** The next to me ***