後悔・懺悔(義人side)
池永さんが去ったあとの車内。 僕は呆然としたまま、運転席側のドアに身を凭れさせていた。
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彼女が嫌がる素振りを見せても、抵抗する様子を見せても……それはオトコを誘う手管だと、思い込んでいた。 彼女のことは『純情そうなフリをして、オトコを手玉に取る悪い女』としか見ていなかった。 …形だけの抵抗をしたって無駄なのに…… 泣き顔を見てもまだ、そう思っていた。
でもそれが、僕の単なる思い込みでしかないと分かったのは…彼女の中に無理矢理、入ってからだった。 …バージンなのか!?
彼女は、本当に泣いていた。嫌がっていた。必死に抵抗していた。 なのに僕は………
どうしようもなく腹が立った。 勝手な思い込みで突っ走った自分に、 冷静な判断ができなかった自分に、 彼女を侮辱した自分に、 とんでもないことをしでかした自分に。 そして…僕は、腹立ちまぎれに口走ってしまった。 「くそッ!バージンだったのかよ…」と。
あの時はまだ、頭の中が混乱していた。 『オトコを誑かす悪い女だから、経験も豊富なハズ』と思っていた彼女が、バージンだった!? …じゃあ僕は…
そんな思考で一杯だった。
でも今は…… そう。少しは冷静になれた今なら、彼女の身になって考えることができる。 力ずくで体を開かされ、 初めてを奪われた挙句に、 あんな言葉を投げかけられて、 彼女は…どれほど傷ついた? 僕は…どれほど傷つけた? 僕は……どうしてあんなことをした? 僕は………どうしてあんなに彼女のことが許せなかったんだ?
今までなら「アイツは、そういうヤツだ」と思った人物には、なるべく関わらないようにしてきた。 「アイツはアイツ、僕は僕」というスタンスを取ってきた。 なのに…彼女には、それができなかった。
何故だ!?
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翌朝。出勤すると…池永さんは居なかった。
「急に辞めてしまって……」 大橋課長が、歯切れの悪い言い方をする。 「えぇッ!?」 何故!…と思い、ふと我に返る。 …僕の所為だ…
「辞表は何処にあるんですか?」 「いや、それが……。社長からの言伝で聞いただけで…」 彼女は何も悪くないし、辞めることもない。辞めるのは……僕だ。 謝って済むことじゃないけれど、でも…なんとか彼女に会って謝って、辞意を撤回してもらって…… そう思って、聞いてみたんだが…? 辞表が無い? 社長からの言伝? そんなことって、あるのか!?
「大橋課長、すみませんが…ちょっと社長のところまで行ってきますので、あとは宜しくお願いします」 何が何だか分からないといった感じの課長を、その場に残して。 とにかく藤堂に話を聞かないと!と思った僕は、社長室へと急いだ。
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社長室の前。 とりあえずノックしたが、返事も待たずにドアを開けた。 そこで僕が目にした光景は… 机の上に肘を付き、両手で頭を抱えて座っている藤堂と…その横で腕を組んで立っている藤島だった。 とても苦しそうな表情で……。コイツらの、こんな姿は初めて見た。
「ちょっといいか?」 「ヨシか…」 ドアの前の僕に、なかなか気付かなかったから、声をかけると…ようやく藤島が此方を見て返事をしてくれた。 藤堂も顔を上げて、此方を見た。
「課長から聞いた。池永さんが辞めたって…」 「ああ」 藤島が、ぶっきらぼうな言い方で返す。 「理由は…知ってるのか?」 「もちろん」 苦虫を噛み潰したような顔で、藤堂が言う。
「……すまない。原因は……僕だ。僕が、彼女を…」 「なんだと!?」 意を決して頭を下げて話を切り出した途端、藤堂の怒声に遮られ…僕は頬の痛みと共に、ドアに叩きつけられていた。 同時に眼鏡も吹っ飛んでしまい… 悪くなった視界の中、右手の拳を震わせている藤島が霞んで見えた。 …僕は殴られたのか…
「何故、優希を傷つけた!?…おい、ヨシ!返事しろッ!」 今度は藤堂に胸倉を掴まれた。
2人とも知ってたのか! じゃあ僕がやったことは… 誰の為にもならないどころか、逆に皆を苦しめてしまった、のか…?
僕は体を揺さぶられながら、そんなことを考えていた。 |
- An original love story - *** The next to me ***