後悔・懺悔

(義人side)

 

 

池永さんが去ったあとの車内。

僕は呆然としたまま、運転席側のドアに身を凭れさせていた。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

彼女が嫌がる素振りを見せても、抵抗する様子を見せても……それはオトコを誘う手管だと、思い込んでいた。

彼女のことは『純情そうなフリをして、オトコを手玉に取る悪い女』としか見ていなかった。

 …形だけの抵抗をしたって無駄なのに……

泣き顔を見てもまだ、そう思っていた。

 

でもそれが、僕の単なる思い込みでしかないと分かったのは…彼女の中に無理矢理、入ってからだった。

 …バージンなのか!?

 

彼女は、本当に泣いていた。嫌がっていた。必死に抵抗していた。

なのに僕は………

 

どうしようもなく腹が立った。

勝手な思い込みで突っ走った自分に、

冷静な判断ができなかった自分に、

彼女を侮辱した自分に、

とんでもないことをしでかした自分に。

そして…僕は、腹立ちまぎれに口走ってしまった。

くそッ!バージンだったのかよ…」と。

 

あの時はまだ、頭の中が混乱していた。

『オトコを誑かす悪い女だから、経験も豊富なハズ』と思っていた彼女が、バージンだった!?

 …じゃあ僕は…

 

そんな思考で一杯だった。

 

でも今は……

そう。少しは冷静になれた今なら、彼女の身になって考えることができる。

力ずくで体を開かされ、

初めてを奪われた挙句に、

あんな言葉を投げかけられて、

彼女は…どれほど傷ついた?

僕は…どれほど傷つけた?

僕は……どうしてあんなことをした?

僕は………どうしてあんなに彼女のことが許せなかったんだ?

 

 

今までなら「アイツは、そういうヤツだ」と思った人物には、なるべく関わらないようにしてきた。

「アイツはアイツ、僕は僕」というスタンスを取ってきた。

なのに…彼女には、それができなかった。

 

何故だ!?

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

翌朝。出勤すると…池永さんは居なかった。

 

「急に辞めてしまって……」

大橋課長が、歯切れの悪い言い方をする。

「えぇッ!?」

何故!…と思い、ふと我に返る。

 …僕の所為だ…

 

「辞表は何処にあるんですか?」

「いや、それが……。社長からの言伝で聞いただけで…」

彼女は何も悪くないし、辞めることもない。辞めるのは……僕だ。

謝って済むことじゃないけれど、でも…なんとか彼女に会って謝って、辞意を撤回してもらって……

そう思って、聞いてみたんだが…?

辞表が無い?

社長からの言伝?

そんなことって、あるのか!?

 

 

「大橋課長、すみませんが…ちょっと社長のところまで行ってきますので、あとは宜しくお願いします」

何が何だか分からないといった感じの課長を、その場に残して。

とにかく藤堂に話を聞かないと!と思った僕は、社長室へと急いだ。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

社長室の前。

とりあえずノックしたが、返事も待たずにドアを開けた。

そこで僕が目にした光景は…

机の上に肘を付き、両手で頭を抱えて座っている藤堂と…その横で腕を組んで立っている藤島だった。

とても苦しそうな表情で……。コイツらの、こんな姿は初めて見た。

 

「ちょっといいか?」

「ヨシか…」

ドアの前の僕に、なかなか気付かなかったから、声をかけると…ようやく藤島が此方を見て返事をしてくれた。

藤堂も顔を上げて、此方を見た。

 

「課長から聞いた。池永さんが辞めたって…」

「ああ」

藤島が、ぶっきらぼうな言い方で返す。

「理由は…知ってるのか?」

「もちろん」

苦虫を噛み潰したような顔で、藤堂が言う。

 

「……すまない。原因は……僕だ。僕が、彼女を…」

「なんだと!?」

意を決して頭を下げて話を切り出した途端、藤堂の怒声に遮られ…僕は頬の痛みと共に、ドアに叩きつけられていた。

同時に眼鏡も吹っ飛んでしまい…

悪くなった視界の中、右手の拳を震わせている藤島が霞んで見えた。

 …僕は殴られたのか…

 

「何故、優希を傷つけた!?…おい、ヨシ!返事しろッ!」

今度は藤堂に胸倉を掴まれた。

 

2人とも知ってたのか!

じゃあ僕がやったことは…

誰の為にもならないどころか、逆に皆を苦しめてしまった、のか…?

 

僕は体を揺さぶられながら、そんなことを考えていた。

 

 

 

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