苦悩 (苦悶)(兄・義人・優希side)
1週間の休みを独断で取った俺は、病室で寝泊りしている。 優希の泣き顔を見るのは、正直言って辛い。 だが今の優希には、俺が必要なんだ。自惚れじゃなく、本当に…。
病院側は、女性ばかりのスタッフを揃えてくれた。そういった心遣いには、とても感謝している。 優希は人見知りしない方なのだが、それでも…精神が不安定な状態のときだと、人間関係が上手く築けないことがある。 これは小さい頃から変わらない事実で…。だからそれをよく知っている俺は、優希に付き添っているわけだ。 でも…どうしても分からないことがある。
何故、優希はヨシのことを俺に言わない?
優希は何も言わずに泣いてばかりいる。 アイツを責める言葉も、罵る言葉も、何も言わずにただ泣くだけ。 「相手は知ってる奴なのか?」と聞いても 「警察に届けるか?」と聞いても 「相手を訴えるか?」と聞いても 首を横に振って否定するだけ。
何故だ!? もしかして…ヨシを庇っているのか!? こんな目に遭わせたヨシを!? まさか!優希、おまえ……そうなのか…?
解消しきれないモヤモヤが、体の中で膨れ上がってくる。 …くそッ、ヨシをもっと殴っとけばよかったな…
俺の心は複雑だ。
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あの日から2週間が経った。 僕は彼女に会えないまま、悶々とした日々を過ごしている…。
「頼むから優希ちゃんに会わせてほしい。彼女に直接会って、謝りたいんだ」 何度も何度も藤堂に懇願したが、取り合ってくれなかった。 仕事の話は普段どおりにできるけれど…優希ちゃんの話に変わった途端に、藤堂の顔から表情が無くなっていく…。
自分で蒔いた種なんだから仕方がない、とは思ってみても…やはり辛い。 同じように妹を持つ兄の立場から思うと、その心情は痛いほど分かる。 僕だって、妹があんな目に遭ったら……
犯人(=僕)が同じ会社に居るだけでも苦痛だろう、と思って藤堂が出勤してくる日を待って辞表を提出したが…受け取ってもらえなかった。
「逃げるのか?」 「そんなつもりで書いたんじゃない!僕は…」 「辞表を書いてサヨナラするつもりか!?…お前に言いたいことは山ほどある!だが、当の優希が…何も言ってくれないんだ。お前を責める言葉も、何も…な。 「………わかった、精一杯働くよ。でも…」 「優希のことは忘れてくれ」 「それは承服できないよ。僕は優希ちゃんに会いたいんだ…。お願いだ、彼女に会わせてほしい」 「ダメだ!」
藤堂がダメなら藤島に…と思ったが、優希ちゃんの入院先は藤島さえも知らなかった。 …会いたい!会いたい!…彼女に会いたい…
何故こんなに彼女に会いたいと思うんだ?
そして…心を突き動かすものの正体を、やっと見つけた。『彼女のことが好き』だったんだ!
なのに僕は……
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もう泣くこともなくなったけど…心の中には、ぽっかりと穴が開いているみたい…
お兄ちゃんが傍に居てくれて嬉しかったけど 「相手は知ってる奴なのか?」 「警察に届けるか?」 「相手を訴えるか?」 悲しくて悲しくて……何を聞かれても答えられなかった。
「『憎い』とか『悔しい』とかじゃなくて…どうして『悲しい』って思うのかしらね…」 カウンセリングの先生にそう言われて、ようやく落ち着いて考えることができるようになった。
私…あんなことされても、まだ係長のことが好きなんだね…。 好きな人に誤解されていたから、悲しい この気持ちが報われないから、悲しい 係長の目が、とても冷たかったから…悲しい 相手が好きじゃなくても、あんな行為ができる人だと知ったから…悲しい…
人を好きになると、心が温かくなって幸せになるんだと…そう思っていた。 なのに現実は、どう? こんなにも悲しくて、切なくて、辛くて……
他の人も同じなの?みんな…こんな思いをしてまでも、人を好きになるの? |
- An original love story - *** The next to me ***