躊躇、逡巡

(優希side)

 

 

お兄ちゃんが来てくれるのは嬉しい。でも仕事は、接待は?ホントにいいの?

私…重荷になってるんじゃないの?

「もう大丈夫だから、毎日来なくてもいいよ?」と言っても、お兄ちゃんは

「それは俺が判断することだから」って……私の言うことを聞いてくれない。

 

 

「バリバリと仕事をしている姿がカッコイイのに〜〜」

「ん?また、そのうち見せてやるよ」

言い方を変えてみたら、かわされて。

「お姫様のご機嫌は、あまり良くないみたいだな。今日は早めに帰るか…」

拗ねたような顔の私を見ると、さっさと帰ってしまって…今日も、ちゃんと話が出来なかった…

 

 

お兄ちゃん、本当に私はもう、大丈夫なんだよ?

来週には、個室から4人部屋へ移る予定なんだよ?

院内で若先生にだって、もう普通に話せるんだよ?

他の男性の患者さんに会っても、ちゃんと挨拶できるんだよ?

 

触れられるのは、まだダメだけど

ジッと見つめられるとドキドキするけど

でも…快方へ向かっているのは確かなんだから…。

 

それは、お兄ちゃんだって担当の先生から聞いてるハズなのに。

なんでそんなに心配するの?

なんでそんなに過保護なの?

 

…ンコン、…コンコン、…コンコン、

 

いろんなことを考えていたら、扉を叩く音に気付くのが遅れてしまった。

「はいッ」

慌てて返事をしたら

「徳田義人です…」

 

 …係長!どうしてココに!?

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

なんで?どうして?ばかりが頭の中をグルグル回って、胸がドキドキしてきた。

どうしよう!…と思ったときに、係長の声が扉の向こう側から聞こえてきた。

 

 

「もう、僕の顔も見たくないと思うし…声だって聞きたくないだろう。でも…僕は君に謝りたいんだ。…ごめん!本当に、すまなかった」

係長の「ごめん」を聞いた途端に、胸がギュッと掴まれたみたいに苦しくなった。

 …な、んで……

 

係長は…私に、したことを後悔しているのよね?

でも私は…謝られても、嬉しくないの。

それどころか、悲しくて…辛くて…涙が出てくる。

なんで?

私の気持ちも、想いも、受けた仕打ちも、全て「ごめん」で済まされてしまうの?

 …そして私は…忘れ去られてしまう?

 

「言い訳になるかもしれないけれど、でも…聞いて欲しい。僕は君が…男を手玉に取る悪い女だと誤解してしまった。許せなく思うほど腹が立った僕は……ヤケを起こして、あんな行為をしてしまった」

 …え?

「僕は、君のことが好きだ。なのに僕は……本当に馬鹿だよ。そんな気持ちに気付かずに、自分で傷つけてしまったんだ…大好きな君を……」

 …うそ…

「本当に、ごめん…。もう君とは会えないかもしれないけど、でも…好きだよ。愛してる。さよなら…」

 …さよなら!?

 

どうしよう、帰ってしまう!

それに「さよなら」って…会えないって…

今、会わないと…もう二度と会えない!?

会いたいけど…会うのが怖い。

私…どうしよう…

 

 

迷っている間にも、足音が遠ざかっていく…

私…私……

 

 

 

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