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初めて会ったのは、得意先の社長に誘われて行ったコンサート会場だった。 俺は客席に座っていて、彼女は舞台で…オーケストラの団員として、フルートを演奏していた。
それ程クラシックに詳しい訳じゃないが、コンサートへは、何度か足を運んでいるし…知っている曲も、結構あると思う。 プログラムには聴いたことのある曲目が書いてあり、俺は楽しみにしていた。 だが演奏が始まり、彼女に目が留まった途端に
一瞬、全ての音が消えた。
不思議なことに、彼女の周りが輝いて見えた。 金色に近い茶髪だからかも知れないが、彼女はフランス人形のようだった。 他の団員たちが真剣な目で演奏していたのに対して、彼女は…とても生き生きとした目で、本当に『音』を楽しんで演奏していた。 彼女の表情から、目が離せない。 彼女の「嬉しくて楽しくて仕方がないの♪」という声が、聞こえてくるようだった。
明るい曲調も相まって、いつもより以上にコンサートを楽しめた俺は 「嬉しいですねぇ。お誘いした甲斐が、ありました」 と相手に言われたくらい、上機嫌だった。
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二度目に会ったのは、電車の中。 大きな鞄と共に楽器(フルート)のケースも持ち、周囲の人に当たらないようにと気遣っている姿に好感を持った。
彼女は、俺のことを何も知らない。 だから俺は、存分に彼女を観察することにした。 (ストーカーじゃねぇぞ!) 年齢は20歳くらいで…身長は相当低い。 (あれじゃ150cm無いな) 全体的に、ぽっちゃりとした体型。 (痩せてるよりイイかも♪) 色白で、肌理(きめ)が細かそうだ。 (ぷにぷにと、触り心地が良さそうな…) !!!
ヤバイぞ俺! こんなこと考えてるのがバレたら、えらい騒ぎになるぞ! それとも俺……… 惚れた!?
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三度目に会ったのは、ウチの会社が入っているビルの中。 大きなダンボール箱を抱えた彼女が、同じエレベータに乗ってきた。 (♪)
ここまで来たらもう『運命の出会い』じゃないかッ! よし、気合を入れて行くぞ〜 だが…今まで姿も見たこと無かったのに何故? …と思って、ふと気がついた。 そういえば… ●■町に在った楽器店が古くなったから解体する、って言ってたよな 確か音楽教室だけが、このビルの6階に引っ越してくる、って…… ということは、彼女は教室の先生!?
あれやこれや考えているとき、急にエレベータが ガクン! と揺れた。 「キャァッ」 その拍子にダンボール箱が、彼女の手から滑り落ち…俺の足の上に ドスッ! 「痛ェッ!!」 「すみません! 大丈夫で……じゃないですね。どうしましょ、私…」
顔色を変えて困っている彼女には申し訳ないが、俺にとっては好都合。 こんなチャンスは絶対に逃さない! 俺は痛む足を押さえながら、心の中では小躍りしたいくらいに喜んでいた。
…俺たちの本当の出会いは、このエレベータから始まった… |
ちなみに… 俺=藤堂俊介(「偽りと真実」お兄ちゃん)、彼女=中山純(「好き…の気持ち」じゅん先輩) …です
- An original love story - *** The next to me ***