Teddy Bear  (10000 HITS 御礼小説)

    (3)

 

私が勤めている音楽教室は、駅から少し離れた場所に建っている『●×楽器』と大きな看板を立てている、7階建ての自社ビルの中にある。

母が「生まれる前から在ったわよ?」というビルを ―― 古くなってきたし、耐震的に問題アリと言われて ―― 今年、新しく建て直すことになった。

(楽器やCDや楽譜や譜面台とか)売れる物は売って処分し、残った物は他の支店へ運ぶ。そして音楽教室は、駅前ビルの6階に引っ越すことに…。

 

 

あの日。

引越しのダンボール箱を抱えて駅前ビルのエレベータに乗った私は、ガクン!
と揺れた途端に、それを…

あろうことか、一緒に乗っていた男性の足の上に落っことしてしまった。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

「痛ェッ!!」

「すみません! 大丈夫で……じゃないですね。どうしましょ、私…」

 

乗っていたのは私とその男性、2人だけだった。

その人は背が高くて横幅もあって、逞しい感じで…「私なんて片手で潰されそう」
と思えるくらい強そうで…なんか怖い雰囲気で……

大きな声で「痛ェッ!!」と言われたときは一瞬、息が詰まりそうになった。

 

   とんでもないことしちゃった、どうしよう!

   病院に行かなきゃ! 診てもらわなきゃ!

   治療費だけじゃなく「慰謝料寄こせ!」なんて言われたらどうしよう!

   ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…

そんなことばかりが頭の中を占めていて、もう必死で謝っていた。

 

箱の中身は楽譜だけど、数が多いから半端なく重い。それが足を直撃したんだから、相当痛いはず。(私だったら、足が腫れて歩けなくなると思う)

 

なのにその人は

「泣かなくていい。…俺は大丈夫だ」

痛む足を押さえながら、そう言ってくれた。

「…え…?」

自分でも気付かなかったんだけど…涙を浮かべながら謝ってたみたい。

そんな優しい言葉をかけられるなんて思っていなかった私は、それまでの緊迫感がプツリと切れて安堵したと同時に…堰を切ったように泣き出してしまった。

 

それから彼は…

自分が降りる予定だった3階にも降りず、

(足が痛いだろうに)元凶であるダンボール箱を持ち、

まだ泣き止めない私に付き添って、6階の教室まで来てくれた。

 

 

『大柄で怖そうな部外者が、泣いてる講師と共に入ってきた!』もんだから、居合わせたスタッフ全員がギョッとして、その場の空気が凍ってしまったけど……

私が(泣きながらも)懸命に事情を説明したら、理解(=安心?)してくれた。

 

「大変申し訳ありませんでした。治療費は、こちらへ請求してください」

教室の責任者も、そう言って頭を下げて謝ってくれた。

でも彼は

「もともと頑丈にできてますから、大丈夫ですよ」

と答えて、私が泣き止むまで傍に居てくれた。

 

   痛い目に遭わせた挙句、泣いてしまった私。

   彼には仕事があるのに、泣き止むまで付き合わせて

   とんでもない迷惑をかけて……

 

なのに、そのときの私は、そこまで全く頭が回らなくて。彼が帰ってしまってから
「あ!」と気が付いて………自分の言動に呆れて、ものすごーく反省した。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

彼から名前と会社名は聞いていたから、「お詫びに食事をご馳走させてください」と私から会いに行って、誘った。

『男性を食事に誘う』だなんて初めてのことで、とってもドキドキした。自分でも大胆だったと思うけど、でも…彼には、精一杯のことをしたかった。

勤務先は同じビルだから顔を合わせることもあって、挨拶も交わすようになり…彼から食事に誘われたりして……

 

私は彼の人柄に、どんどん惹かれていった。

 

 

 

 

← back    Thanks♪ TOP

- An original love story -  *** The next to me ***

inserted by FC2 system