番外編2

初デート(前編)

 今まで「無用の長物」と兄に言われていた、僕の携帯。

 それが裕美と付き合うようになってからは、電話してメールして……とフルに活躍してくれている。

 携帯ってこんなに便利なモノだったのか!? と今更ながらに感じている僕は、世間から遅れているんだろうか…?

 

 

「……駅前で待ち合わせしよう。10時で、どう?」

『はい、大丈夫です』

「じゃあ、また明日。おやすみ」

『おやすみなさい』

 携帯を閉じて裕美の顔を思い浮かべると、なぜか心の中が温かくなってくる。

「……本当に、稔クンは幸せそうな顔しちゃって〜」

 余韻を楽しんでいたのに、兄の声がぶち壊した。

 

 僕達は双子の兄弟。顔は瓜二つで、背格好もソックリ。

 違うところと言えば、髪の色くらいかな?

 性格も良く似ていて、優しい……と思う。

 兄さんは“優しさの塊”って感じだけど、僕は“優しさと厳しさとが半々(?)”ってトコだろうか。

 

「邪魔しないでくれる?」

 ノックも無しに僕の部屋へ入ってきた兄を睨む。

「そんなつもり無いよ? ただ純粋に、弟の幸せを喜んでいるだけなんだから」

「幸せ?」

「稔の、そんな顔を見るのは何年ぶりだろ……。僕も嬉しくなってくるよ。で、明日は裕美ちゃんと初デート?」

「ああ。兄さんも、だろ?」

「うん。『いい加減な気持ちで付き合えない!』って慎重に考えすぎて、千尋には随分と悲しい思いをさせてしまったけど……ようやく心が決まったからね」

「兄さんらしいよな。僕は『付き合っているうちに、好きになるかも』と思っていたんだけど……結局、みんなダメだった。でも裕美と付き合って、やっと分かったよ」

「何が?」

「互いが想い合うって、大事だよね。好きだからこそ相手の声が聞きたいし、今は何をしてるのかな? ……って思う。こんな風に考えることができたのも、裕美と付き合うようになってからなんだ」

―― そう。僕は彼女に感謝している

 

「あの稔が、こんなことを言うなんて……。成長したんだね〜」

 そんな言葉を残して、兄は自分の部屋へと戻っていった。

 

 明日は、待ち合わせの30分前に行こう。

 僕を見つけた裕美は、どんな顔をするのか…………楽しみだな♪

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 今日は稔先輩と、初めてのデート♪

 昨夜は先輩と電話した後も、着ていく服がなかなか決まらなくって……寝不足。

 大事な日なのにぃ〜〜!!

―― なんて後悔しても、自分が悪いんだから仕方ないんだけど……

 

 

 デートのことは、ママには言ってあるの。(パパには内緒!)

 だから協力してもらって、目の下のクマさんが目立たないようにしてもらった。

 

「……うん、これで良し。裕美、とっても可愛いわよ♪」

「ママ、ありがとう」

「『彼氏ができたの♪』って、写真まで見せて報告してくれて……ママも嬉しいわ」

「私に彼氏ができたら、嬉しいの??」

「……それもあるけど、『正直に、親に報告してくれた』ってことが嬉しいの。まだまだ子どもだと思っていた裕美が、デートだなんてね……」

「ママ……」

「門限は8時。彼に挨拶したいから、ちゃんと家まで送ってもらいなさい。いい?」

「了解〜! じゃママ、行ってきま〜す♪」

「いってらっしゃい、気をつけてね」

 

 ママの笑顔に見送られて、私は待ち合わせの場所へと向かった。

―― 早く稔先輩に、会いたい……

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 待ち合わせ場所の某駅(裕美が迷子にならないよう、彼女が利用している駅の隣)に、30分前に着く予定が―― 50分前に到着してしまった。

 それもこれも『早く裕美に会いたい!』という気持ちが高じての結果であり、……自分でも驚いている。

 今までの僕には、考えられないことだ。

 待ち合わせ時間にならないと彼女は来ないのに、こんな行動を起こしてしまう自分を愚かしく、また好ましくも思える。

 『人を好きになる』というのは、心だけでなく自身の行動までも動かすのか?

―― だとしたら凄いよね……

 

 待ち合わせ20分前。

「ご一緒に、お茶でも……」

 同じ台詞は、もう聞き飽きた。

 これで何人目だろうか。知らない女性が親しげに話しかけてくるけれど……無視。

 

 15分前。

「映画でも行きません?」

 初めて違う台詞を耳にしたけれど…もう、うんざりしてきた。

「彼女を待っているんです」

 相手の顔も見ずに答える。僕の目は、もうすぐ此処へやって来るであろう裕美の姿を探している。

「もう随分と此処に居ますよね?」

 笑いを堪えたような声にムッとするが、目線はそのまま。

「待ち合わせは10時です」

「……え!?」

「僕が彼女に会いたくて堪らなくて、早く来ただけですから。………あ、裕美♪」

 裕美を見つけた僕は、初めてその女性に顔を向けた。

「では失礼します」

 呆気に取られている女性を残し、裕美の居る場所へと走っていく。

 

 裕美を見つけたときの、あの高揚感は…口に出して説明できるモノじゃない。

 こんなに人が多い中で、何故あんなに背の低い裕美を見つけられたのか。

 体育の授業くらいでしか走ったことの無い僕が何故、裕美の元へと走るのか。

 疑問に思うことが、どんどん頭に浮かんでくる。

 だけど……

 それもこれも、全てが“彼女が好きだから”こその、心の変化や言動なんだろう。

 

 走ってくる僕を見て、目を丸くして驚いている裕美。

 さて、キミの第一声は何なんだろうね?

 ウキウキしてきた。

 

2009.04.03. up.

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