プロローグ
『(株)T&F』人事課長 酉島尚吾(とりしま しょうご)の有能さは、社外でも認められている。
凄腕の人事課長である彼は 類稀なる人間観察力を持ち、 行間を読むことにも長け… その能力を生かして、本業の傍らでパソコン教室の講師をしている。 本来ならば、社の規約では「アルバイト禁止」なのだが…こと彼に関しては『優れた人材を確保するため』という理由で、会社側から認められているのだ。 目に留まった受講者に『(株)T&F』の名刺を渡したり スカウトしたり……(事実、羽山香織をスカウトした)
このアルバイト、表向きは『会社側が許可して』ということになっているのだが、 まぁこれも尚吾と社長と副社長しか知らないので、表に出ることは無いが…。
会社設立前から社長や副社長と共に奔走し、一翼を担ってきた彼。 人事の面では社長から一任されるほど、絶大な信頼を得ている彼。 物腰が柔らかくて人当たりも良く、社内の誰からも頼りにされている彼。 だが…… その過去は、誰も知らない。
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ある日。 フランスのメディアに『アジアの注目企業』として、T&F が取り上げられた。
藤堂社長は「なかなか面白い取材だったぞ」と笑っていた。 世界的にも社名が知られることは良いことだし、喜ばしいことではある。 だがその影響で ―― 他社の訪問や取材、中には「見学させてほしい」という問い合わせまでが寄せられて ―― その対応に追われるようになってしまった。
社員たちは当初、海外からの問い合わせには全て英語で対応していた。 が……だんだんと微妙なズレが生じるようになってきた。 それに英語が通じない相手では、どうしようもない。 困る。 非常に困る!! そこで尚吾は語学に堪能な者を寄越してもらおうと、幾つかの人材派遣会社に連絡を取った。
まさかその行動が、己の過去と向き合うことになるとは思いもせずに…
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「!!! …大道寺、綾女(だいどうじ あやめ)!?」
一枚の履歴書を手にした途端、尚吾は目を見張った。 それまでの、一切の思考が停止した。
諦めなくてはならなかった人 心の奥に封じ込めた想い もう会うことなど無いと思っていた
「どうして、今頃…」 その名を食い入るように見つめていると、11年前のことが鮮明に蘇えってくる。 あの熱い想いと、絶望感を連れて…… |
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