恋情*愛情

(義人side)

 

 

藤堂の後をつけて病院まで来て、離れた場所から様子を伺っていた。

 

 

アイツが優希ちゃんの病室から出たのを見計らって、扉の前まで来てみたが…ノックはできても、扉を開けて彼女の顔を見ることはできなかった。

僕の顔を見た彼女がショックを受けたら?叫び声を上げたら?…そう思うと…。

「もう、僕の顔も見たくないと思うし…声だって聞きたくないだろう。でも…僕は君に謝りたいんだ。…ごめん!本当に、すまなかった」

 

扉越しに、彼女に話しかけた。

 

「言い訳になるかもしれないけれど、でも…聞いて欲しい。僕は君が…男を手玉に取る悪い女だと誤解してしまった。許せなく思うほど腹が立った僕は……ヤケを起こして、あんな行為をしてしまった」

 …本当に言い訳だよな…

「僕は、君のことが好きだ。なのに僕は……本当に馬鹿だよ。そんな気持ちに気付かずに、自分で傷つけてしまったんだ…大好きな君を……」

 …あんなことをしてから気付くなんて…

「本当に、ごめん…。もう君とは会えないかもしれないけど、でも…好きだよ。愛してる。さよなら…」

 

彼女に、少しでも僕の想いが伝わればいいと思いながら話したけれど…想いばかりが先行して、言いたいことの半分も言えなかった。(…情けない…)

彼女を愛している。

でも彼女は……

「!?」

扉から離れてエレベータの所まで歩いてきたとき、ふいに彼女の声が聞こえたような気がして振り向いた。

 

「行か…ないで…」

彼女が病室の扉に凭れて…泣きながら、僕の方を見ていた。

 

 

 …やっと、君に会えた…

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

「行っちゃ嫌…」

そう言って泣く彼女を宥めながら、共に病室に入る。

誘導しようと何気なく肩に手を置いたら、彼女がビクッとした。

 

「あ、ごめんなさい…」

「いや…君が謝ることはないよ。原因は僕なんだから……すまない」

「嫌、…謝らないで…」

「どうして…?」

「だって…私の気持ちも何もかも『ごめん』で済まされて、そして…あなたに忘れ去られてしまう…。今でもまだ…あなたのことが、好きなのに………」

そう言って彼女は泣き崩れた。

 

   彼女が愛しい。

   彼女を傷つけるモノから守りたい!

   でも、もう既に彼女を傷つけてしまった僕は…

   彼女を守ることを許されるのか?

   僕には、その資格があるのか!?

   僕は……

 

「こんなに…辛くて悲しい恋は、したくないのに…なのに…あなたが好きなの!」

 

彼女の純粋な気持ちが引き金になったのか、僕は拘りを捨てて優希を抱きしめた。

怖がらないように、優しく優しく包み込むように…

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

ようやく落ち着いたところで、優希をベッドへと運んだ。もちろん抱いたままで。

暫く見ないうちに…随分と痩せたみたいだ。(これも僕の所為か…)

 

「君を『優希』と呼びたい」

「係長?どうしてそんなことを…」

「もう変な拘りは捨てたんだよ」

「変な拘り…?」

「傷つけた張本人が守る、というのは許されることなのか!?…ってことに拘っていたんだ。でも…愛する君を守りたい、という気持ちは膨らむばかりで…」

「係長…」

「優希、君が好きだ。愛している。…僕と共に居てほしい」

「ホントに?罪悪感や義務感からじゃなくて、本当に…愛してる?」

 

不安げな表情で、涙を浮かべて僕を見上げてくる優希が…堪らなく愛しい。

 

「もちろんだよ。愛してる…優希…」

抱きしめると、「嬉しい…」と涙を流した。

唇を重ねるだけのキスをすると、「初めての、キス…」と頬を赤く染めた。

 

 

僕たちは抱き合ったまま…消灯時間になるまで、そうしていた…

 

 

 

★『偽りと真実』はランキングに参加しています★

 

 

← back    偽りと真実 TOP    next →

- An original love story -  *** The next to me ***

inserted by FC2 system