合奏して、パート練習や個人練習をして、また合奏……を何度も繰り返して、曲を仕上げていく。
でも私は、ついていくだけで精一杯! という状態で、思わず溜息が出てくる。
「クラリネット! ここは大事な所だから、リズムを正確に刻め。流されるな」
「「「はい!」」」
「それと音程、合わせて」
「「「はい!」」」
―― 足を引っぱってるのは、私です。すみません…
楢崎先生に注意される度に、自分の力量不足を感じてしまう。
『お願いです! 見捨てないでください〜〜!』
合奏後に疲れ果てた体で家路についた私は、電車の心地よい揺れにウトウトして眠ってしまい……先輩に向かって叫んでいる夢を見た。
―― 重症だぁ…
もっと練習しないとヤバイ! と思った私は、頭を捻って考えた。
早朝練習は7時半。
それより早く学校へ行って練習するのは―― 近所迷惑になるから―― 無理。
近くの河原に行くのは―― 犬が来たらパニックになっちゃうから―― 却下。
犬は苦手なんだもん。
あとは……
昼休みに音楽室行って吹くのは―― お弁当を早く食べて―― うん、いける。
真紀に、ちゃんと言っておけば大丈夫。
よぉし、がんばるぞ♪
おーーー!
練習した成果が出始めたころに、1学期が終わった。
そして夏休みに入ると同時に、吹奏楽部の合宿が始まる…
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
少し戻って……これは、7月に入った頃のこと。
「合宿って、運動部がするものでしょ? どうして『吹奏楽部』がするのよ。学園内で寝泊りしないで、練習が終わったらサッサと帰ってきなさい!」
「でも、ママ……私も、みんなと一緒に参加したいの……」
「家から学園まで、電車で2駅なのよ? 充分帰ってこれる距離じゃないの。遅くなるときは、パパに迎えに来てもらえばいいんだわ」
「………」
学校行事以外では、初めての『お泊り』になるから……母は、なかなか参加の許可を出してくれない。何も言えずに俯いている私を見て、父が助け舟を出してくれた。
「いいじゃないか、こういうのは学生時代にしか出来ないことなんだよ。練習だけの参加なんて、仲間意識も何も生まれないじゃないか。それとも……裕美が皆から仲間外れにされてもいいのかい?」
母に見えないようにして、私にピースサインを送りながら言う。
―― パパ……部活のみんなは、そんな意地悪じゃないよ?
でもその一言が効いたのか、やっと母からOKが出て……私は合宿に参加できることになった。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
「え〜と……私たちが茶道室で、男子は華道室で泊まるんだね」
「毎年、そう決まってるのよ。やっぱ畳のある部屋じゃないと寝れないしね〜」
「ね〜」
「ちなみに。休憩するのも、その部屋だからね。休憩時間に、一眠り♪ なんてのもアリなんだよ?」
「そうなんだ〜」
合宿の前日。部活が終わった私と真紀は、音楽室で合宿の話をしていた。
「なになに? 合宿のこと?」
そこへ雄大くんが入ってきた。
「楽しみだよな〜〜 最後の夜には、肝試しもあるしな♪」
「そ。毎年恒例のね♪」
「肝試しがあるの!? ヤダ……私、パスしたいな。参加したくない……」
「裕美?」
「裕美ちゃん、怖いのか?」
情けない顔になって俯く私を、心配そうに見る2人。
「うん。……暗いの怖いし、大きい声や音も怖いし、雷も怖いし、ついでにジェットコースターとか速い乗り物も怖いし、犬も怖いし、水も怖い……から泳げない……し……」
顔を俯けたまま、指を1つ1つ順に折りながら言う私。
「じゃあ『お化け屋敷』とかダメなんだね」
「無理無理、絶対に無理!」
「遊園地に行けないじゃんか」
「遊園地は行くよ? ……お子様向けの……」
「え?」
「なんだって?」
2人に聞き返された私は、顔を上げて大きく息を吸い込んだ。
「……遊園地では、お子様向けのに乗ってるの!」
「ぷッ」
―― 誰!?
恐る恐る振り向いてみると、音楽室の入口に凭(もた)れて口元を押さえて笑いを堪(こら)えている人物が……
「稔、先輩……」
私の顔が真っ赤になる。
「あはは、ごめんごめん。つい……」
と言う先輩。
「稔先輩、何時からココに?」
「僕と一緒に来たんだけど……気付いてなかった?」
真紀の問いに、雄大くんが答える。
―― じゃあ、さっきの……全部、聞かれてたの!?
めちゃめちゃ恥ずかしかった。穴があったら入りたいよ〜!