翌朝8時、視聴覚室集合。
部長と副部長は7時から来て、準備をしていて……15分前になると中等部・高等部の、ほとんどの部員が集まる。
「裕美、おはよ〜♪ で、その大きなスーツケースは何? 一週間くらい泊まる気?」
「あ、真紀おはよ♪ 私、荷物を纏めるのが下手だから、いつも『引越しする気?』なんて言われちゃうの。やっぱ目立つ?」
「目立つわよ。裕美が入りそうじゃないの。こんな大きな物、よく持って来れたわねぇ」
「コレ、私が余裕で入っちゃうサイズなの。でもパパが『これじゃあ電車に乗るのは無理だよ。他の人にも迷惑かけちゃいけないからね』って、車で送ってくれたんだ♪」
えへへ……と悪戯っ子のように笑う私を見て、真紀は苦笑していた。
8時、定刻どおりに開始。
いつものように有田先輩が出席をとると、部長が『合宿での注意事項』を伝える。
「団体行動ですので、スケジュールどおりの時間厳守でお願いします。自由時間については各パートリーダーに任せますので、状況に応じて自由に使ってください。但し休憩時間は、ちゃんと休憩するように。貴重品は各自が責任を持つこと。茶道室の鍵は有田さんが、華道室の鍵は岡村くんが、それぞれ保管責任者となりますのでよろしく。このあと、荷物をそれぞれの部屋に運んで休憩してください。練習開始は9時です」
「やっぱり重いなぁ……」
いくら同じ階だとはいえ、茶道室は渡り廊下で繋がっている別棟にある。
視聴覚室からの長〜〜い距離をスーツケースを引き摺って歩く私の姿は、注目を浴びていたらしくって……
「ねぇ、まどか。アレって運動部のトレーニングみたいに見えない?」
「タイヤを引き摺って走る、アレ?」
「そうそう、アレ」
「めちゃめちゃ体力が付きそうね……」
「その前に、裕美ちゃんの体力が尽きそうよ」
「千尋ったら、うまいこと言うわね」
「ダジャレのつもりで言ったんじゃないわよ?」
「でも、そう聞こえたわよ?」
「そう?」
3年生の先輩方が、そんな会話をしながら私たちの後ろを歩いていたなんて知らなかったし……
「手伝ってあげたいのは山々なんだけど、自分の荷物もあるしねぇ……」
「じゃあ急ぐ? この荷物を先に運んでから、手伝ってあげようよ」
「そうね。でも純は無理しないでよ?」
「大丈夫よ♪ もう……美香子は心配性なんだから……」
2年生の先輩方が、こんなことを言いながら私たちの前を歩いていたなんて全く気付きもしていなかった。
真紀は「自分が持ってきた荷物なんだから、自分で責任持って運ばなきゃ。ね♪」って言いながら、私の隣を歩いてくれていた。
もうすぐ茶道室♪ というときに、2年生の先輩達が迎えに来てくれたけど……私は丁寧に断りを入れて、自分で荷物を運び入れた。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
荷物を置いてから畳の上に寝転んで、真紀と一緒にスケジュールを再確認する。
9時〜10時 『パート練習』 10時〜12時 『木管セッション(10分休憩有り)』 12時〜13時 『昼食・休憩』 13時〜14時 『個人練習』(13時〜15時 『金管セッション』) 14時〜15時 『パート練習』 15時〜16時 『自由時間』 16時〜18時 『合奏(10分休憩有り)』 18時〜18時半 『終わりの会』(最終日の4日目は、ここまで) 18時半〜19時半 『夕食・休憩』 19時半〜22時 『風呂・リク、etc.』 22時 『消灯』 翌朝6時半 『起床』 7時半〜8時半 『朝食・休憩』 8時半〜9時 『始めの会』
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……の繰り返し。
「目いっぱい詰まってるんだね……」
「まあまあ、そんなに気を落とさなくても……。書いてない所でも、途中で5分とか10分とか休憩が入るんだよ?」
「気落ちしてたの、わかった?」
「裕美は、すぐ顔に出るんだもんね〜」
「真紀〜〜、体力が持たなかったらどうしよう〜」
「疲れたと思ったら、すぐに先輩に言うこと。無理しないで、ちゃんと言うのよ? それと……熱中症にならないように、水分はきちんと取ること」
「うん、ありがと。気をつけるね♪」
「やっと笑ったわね〜」
吹奏楽部、3泊4日の合宿が始まった。