「裕美は私が責任を持って、茶道室まで連れて行きます。大丈夫ですよ♪」
あの後、真紀が来てくれて……私の身柄は、稔先輩から真紀に託された。
「ねぇ裕美、なんでそんなに泣いてるの?」
茶道室に着いてからもまだヒックヒックとしていた私に、真紀が聞いてきた。
「……怖かったの。それに『誰も居ないよ』って言ったのに。稔先輩、ウソついた…」
「裕美が、そんなに怖がりだったとは知らなかったわ。それに関しては、悪かったと思う。でもね、稔先輩はウソつきじゃないわよ? 裕美も分かってるんでしょ?」
「うん……。今なら、なんとなく分かる。先輩も、ってゆうか……男子はみんな、お化け役と協力し合ってたんだよね。だから……」
「そうゆうこと。ほら、もう泣き止みなさい。裕美には見えなかったでしょうけどね、稔先輩とても責任を感じちゃったみたいで……辛そうな顔してたわよ?」
「うそ……」
「ホント。『ごめんね』って言いながら裕美を慰めてる姿なんて、見てる方が切なくなっちゃったわ」
「どうしよう真紀、私……稔先輩に悪いことしちゃった。謝らなきゃ…」
「あのね裕美、そんな風に思っちゃダメ。いい? 『もう大丈夫です。心配かけてすみませんでした』って言って、ニッコリ笑えば万事OKなの。分かった?」
「……そんなのでイイの?」
「良いの! …先輩たちのことは中等部のときから知ってるんだから」
私に任せなさいよね♪ と真紀が笑って言った。
「それはそうと……先輩との肝試しは、どうだった? こんなに怖い目に遭っちゃったから、もう先輩のことはキライになったとか?」
「……これが肝試しじゃなくて、デートだったらイイのに〜 って思った。そりゃあメチャメチャ怖かったけど、でも……稔先輩のことはキライになんてならなかった。ウソつかれた、って思ったときは悲しかったけど、でも………好き……」
「やっと自分の気持ちに気付いたの? 進歩したじゃない♪」
自分のことのように喜んでくれる真紀を見て、私は……良い友達と巡り合えたことに感謝した。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
合宿が終わり、吹奏楽コンクールに出演し、それが終われば……今度は『桜祭(さくらまつり)』の練習。『夏休み』なのに、休む暇も無い。
『桜祭』を初めて聞いたときは、その規模の大きさにビックリした。
体育祭(2日)と文化祭(3日間)をくっ付けて、水・木・金・土・日の5日間。
初日は中等部の体育祭で、二日目は高等部の体育祭。
文化祭は、中・高いっしょで…一般の人も出入りOK♪
吹奏楽部は体育祭の入場行進のときには行進曲を演奏して、校歌斉唱のときには校歌を演奏(二日間とも、高等部の私たちが)する。
文化祭のステージは中等部のみ、高等部のみ、そして合同演奏……
いったい私たちは何曲演奏するの!? というくらい盛りだくさんの内容で、練習練習の毎日で……夏休みが「あっ」という間に終わってしまった。
―― まだ宿題が終わってないのに〜〜
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『桜祭』も終わり、やっと「ほっ」とできるようになったけど……それは私にとって、辛い季節の始まりでもあった。それは……もう稔先輩に、会えなくなるから……
毎年『桜祭』が終わると、吹奏楽部の3年生は引退する。
運動部は夏の大会が終わったら、文化部は桜祭が終わったら、引退……。
3年生と1年生の校舎は別の棟だから、稔先輩が部活を覗きに来てくれない限り、会うことは無い。
『好き』っていう気持ちに気付いて、それを先輩に伝えることもできないままの私。
あんなに毎日、部活で顔を合わせていたのに……今はもう会えなくて、寂しい。
夢にまで先輩が出てくるくらい、会いたいのに……どうしたらイイのか分からない。
意気地なしの自分がイヤになってくる。
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12月に入った。
校内で、思いがけず稔先輩の姿を見れた日は…なんか嬉しい。
「先輩に会えたのね♪」
なんて真紀に言われるくらい、普段と表情が違うらしいけど……自覚ナイです。
「そんなに違う?」
「ぜんっぜん違う! 別人かと思うくらい、顔の筋肉が緩(ゆる)んでるからね〜」
「う〜〜」
「冗談だってば♪ 裕美が、とっても幸せそうな顔をしてるから……すぐ分かるのよ」
「そうなんだ……」
そのとき私は、「卒業式に告白しよう」と心に決めた。
なのに……それから数日後。昼休みに音楽室へ行った私は、とんでもない場面を見てしまった!
「ねぇ……好きなの! もう、どうしようもないくらい好きなの! なんとかしてよぉ…」
羽山先輩が、稔先輩の胸板を叩いて、泣いていた。