続編
【稔】
隣県の私立K大学は、電車とバスを乗り継いで1時間半ほどの場所に有る。
そこの理工学部 電気工学科に入学した僕、法学部 法律学科に入学した兄。そして……文学部 英文学科に入学した羽山さん(=兄の彼女)。
羽山さんが受験して合格した中には、僕たち兄弟と同じ大学があった。
「学と両想いになったんだから、やっぱ同じトコに行くのが当然でしょ?」そう言って笑う羽山さんを、愛しそうに見つめながら微笑む兄。
大学のキャンパス内。僕は、そんな2人をとても羨ましく思う。
今まで「人が羨ましい」なんて、そんなこと思ったことも無かったのに。
―― 僕の傍に裕美が居てくれたら、こんな気持ちにならなかったよね……
そう思うたびに、あんなに小さくて可愛い彼女の存在が、僕の中で大きくなる。
僕に『初めて』の経験を、たくさんさせてくれる彼女。裕美……
大学での毎日は、とても充実している。けれど此処には君が―― 裕美が、居ない…
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
「男の人とお付き合いするのは初めてで、何も知らなくて…」なんて裕美は言うけれど、僕だって似たようなモノだ。
付き合ってきた人数自体は、両手で数えられるくらい居た。
女の子から告白されると、「じゃあ付き合おうか」と返事をしていた。
断るのも可哀想だし、別に嫌いじゃないし……そのうちに好きになるかもしれない、と思いながら付き合っていた。
だけど僕の外面しか見てくれていなかった女の子たちは、僕が『好き』という感情を持つ前に、僕から離れて行ってしまった。
そして「好きです」と告白されることが、だんだん苦痛になってきた僕は……大学受験を理由に、その全てを断るようになった。
その僕が、裕美に出会って……やっと気付いた。
「断ったら可哀想だ」なんて、そんな気持ちで付き合っちゃいけなかった。そんなのは『優しさ』じゃない。
本当に「好きだ!」と心から思える人とだけ、付き合うべきだったんだ。
一方通行の想い。
2人の温度差。
僕も傷ついたけれど、彼女たちだって傷ついたんだと……今なら分かる。
裕美のことを好きになってから、様々な心の変化に戸惑っている僕。けれどもそれがまた新鮮で、嬉しく感じているのもまた事実で……。
自分の中に、こんな気持ちが存在していたなんて初めて知った。
本人は自覚してないだろうけど、君は僕に大切なモノをたくさん教えてくれる。
車の免許を取る為に寂しい思いをさせてしまったけれど、もうそんな思いはさせない。だから我慢なんてしないで! 思っていることは何でも僕に話してほしい。
裕美のことが、どうしようもなく好きで好きで堪らない。可愛くて可愛くて……腕の中に囲んで抱きしめて、離したくないほど愛しい。
会えば嬉しくて楽しいけれど、帰宅するときは辛くなる。
こんな感情は初めてだ。どう表現したらいいんだろうか……