続編
【裕美】
「わっ!!」
「きゃぁっ!」
いつもより早く授業が終わった放課後。音楽準備室に入って自分用のクラリネットを出している最中に背後から驚かされた私は、腰が抜けて床に座り込んでしまった。
高等部から新しく入ってきたホルンの1年生、高山直人(たかやま なおと)くんは身長が180cmもある。
とっても背が高くて、明るくて、入部して早くも部内のムードメーカーになって、お調子者で、いたずらが大好き! ……とはいっても、どれもが笑って許せる程度の『いたずら』。だから皆も「ホントにオマエは〜〜」って感じになる。
でも私は怖がりで小心者で、後ろからいきなりなんてのはホントにダメで。だから「こうゆうのはヤメテね」って言ってるのに……なぜか高山君は止めてくれないの。
ちゃんと「裕美先輩」って呼んでくれてるけど、こんなことをされている『先輩』は私だけ。別に「先輩なんだから敬いなさいよね」って偉ぶりたい訳じゃない。少しは認めてほしいな、って思ってるの。
私は経験も少ないし、頼りにならないって……そんなのは自分でも痛感してるから、皆の足手まといにならないように頑張ってるんだけどな………
「先輩、そんなにビックリした?」
「……た、かやまく、ぅ……」
「え!? ……裕美先輩っ!」
私は泣いてしまった。準備室の床に座り込み、クラリネットのケースを胸に抱えたままで……
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
とっても怖かった。背後から驚かされて、心臓が止まるかと思った。
高山君を確認した途端に、張り詰めていた何かがプツンと切れて……いろんな感情が溢れてきて……頭も心も、ぐちゃぐちゃになって泣いてしまった。
「すみません! 裕美先輩が、そんなに怖がりだとは思ってなくて…」
何度も謝っている高山君の言葉は、ちゃんと心に届いたから「もういい加減に泣き止まなくちゃ」って思ったけど……私は、それができなかった。
その声が稔先輩とソックリだということに気付いたのは、いつだっけ?
5月の連休には一緒に映画を見たし、千尋先輩たちとダブルデートもしたけど……あれから3週間が過ぎようとしているのに、稔先輩には会えてない。
高山君が誰かと話すたびに、私に話しかけてくるたびに、稔先輩の顔が頭に浮かんでいた。
その声は心地よかった。私のすぐ傍に稔先輩が居て、慰めてくれているようで……。
でもこの声の持ち主は高山君。私が会いたい人じゃない。
―― 会いたい人は、ココには居ない……
その現実に、また涙が溢れてきた。さっきとはまだ別の理由で。
だから……だから私は、なかなか泣き止むことができなかった。