続編

迷子(1)

【裕美】

 音楽準備室で泣いた、あの日。なかなか泣き止めなかった私は、いきなり高山君に抱きしめられて告白されて……その行動や言葉にビックリしすぎて涙が引っ込んた。

 泣き止めたのは良かったと思うんだけど、でも……

  

 

「裕美先輩のこと、つい構いたくなるってゆうか……その、俺……ちっちゃくって可愛い先輩のことが好きで……もっと優しくしなきゃって思ってるのに、ガキみたいな表現しかできなくって……本当にすみません!」

 高山君はそう言いながら私に覆いかぶさり、きつく抱きしめてきた。

「!!」

「先輩なのに、『先輩』って感じがしなくって……いや、裕美先輩が先輩らしくないってワケじゃないんですよ! なんて言ったらいいのか、その……」

「!?」

「ああ、もう……上手く言えないなぁ……」

「…?」

「とにかく俺、裕美先輩のことが好きなんです。付き合ってください!」

「!!」

 ちゃんと断らなくちゃ! って思っても……高山君に抱きしめられている状態のままで体が固まっちゃってて、なかなか言葉が出てきてくれない。

―― どうしよう……

 

「ダメよ! 裕美には彼氏が居るんだからねっ!」

 準備室の入口から聞こえた声に安心して、それまで強張っていた体からスーッと力が抜けていくのが感じ取れた。

「真紀……」

 振り向いて、その姿を確認する。

「え! マジっすか!?」

 高山君が、真紀と私の顔を交互に見ながら尋ねてくる。

「……うん」

 両手でしっかりとクラリネットのケースを胸に抱えたままだった私は、自分から体を離すことができない状態で。高山君の腕の中、ぎこちなく頷いて返事をする。

「そう。だから無理なの。わかった?」

 言いながら、真紀は私と高山君を引き剥がしてくれて。やっと自由になれてホッとした私は、制服の汚れを払いながら立ち上がった。

 けれど高山君は納得していないみたいで、真紀の方に向かって話し始めた。

 

「でも俺が裕美先輩のことを想うのは自由でしょ?」

「まぁ自由だわねぇ……」

「それに……その人、ココには居ないんでしょ?」

「……そうだけど」

「どこの誰だか知らないけどさぁ、……最近の裕美先輩が元気無いのって、そいつの所為なんじゃないんですか!?」

「ちょっと高山君、何言って……」

「だって裕美先輩、あまり笑ってないでしょ!? 俺だったら……俺なら絶対に、こんな寂しい顔なんてさせない!」

「高山君っ! あ、裕美……」 

 

 二人の会話を聞いていられなかった私は、クラリネットのケースを棚に仕舞うと、そのまま準備室から飛び出した。

 心の中がグチャグチャになっていて、楽器を吹けるような状態じゃなかった。 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 あの日から高山君は、私にあまり話しかけなくなった。だけど目は、何か言いたげで……。視線を感じる方には、いつも高山君が居る。

 言いたいことがあれば言えばいいのに、とは思うけど…なぜか聞きたくない。

 

 『俺が裕美先輩のことを想うのは自由でしょ?』

 『その人、ココには居ないんでしょ?』

 『裕美先輩が元気無いのって、そいつの所為なんじゃないんですか!?』

 『俺なら絶対に、こんな寂しい顔なんてさせない!』

 

 高山君の言葉が頭の中をグルグルと回ってる。

 私の好きな人は稔先輩なのに……高山君と稔先輩の顔が、交互に浮かんでくる。

 声がソックリなだけで、全く別の人なのに……なんで??

 どうしちゃったんだろ、私……。

 

 先輩……会いたいよぉ…

 

2010.02.25. up.

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