続編
【裕美】
音楽準備室で泣いた、あの日。なかなか泣き止めなかった私は、いきなり高山君に抱きしめられて告白されて……その行動や言葉にビックリしすぎて涙が引っ込んた。
泣き止めたのは良かったと思うんだけど、でも……
「裕美先輩のこと、つい構いたくなるってゆうか……その、俺……ちっちゃくって可愛い先輩のことが好きで……もっと優しくしなきゃって思ってるのに、ガキみたいな表現しかできなくって……本当にすみません!」
高山君はそう言いながら私に覆いかぶさり、きつく抱きしめてきた。
「!!」
「先輩なのに、『先輩』って感じがしなくって……いや、裕美先輩が先輩らしくないってワケじゃないんですよ! なんて言ったらいいのか、その……」
「!?」
「ああ、もう……上手く言えないなぁ……」
「…?」
「とにかく俺、裕美先輩のことが好きなんです。付き合ってください!」
「!!」
ちゃんと断らなくちゃ! って思っても……高山君に抱きしめられている状態のままで体が固まっちゃってて、なかなか言葉が出てきてくれない。
―― どうしよう……
「ダメよ! 裕美には彼氏が居るんだからねっ!」
準備室の入口から聞こえた声に安心して、それまで強張っていた体からスーッと力が抜けていくのが感じ取れた。
「真紀……」
振り向いて、その姿を確認する。
「え! マジっすか!?」
高山君が、真紀と私の顔を交互に見ながら尋ねてくる。
「……うん」
両手でしっかりとクラリネットのケースを胸に抱えたままだった私は、自分から体を離すことができない状態で。高山君の腕の中、ぎこちなく頷いて返事をする。
「そう。だから無理なの。わかった?」
言いながら、真紀は私と高山君を引き剥がしてくれて。やっと自由になれてホッとした私は、制服の汚れを払いながら立ち上がった。
けれど高山君は納得していないみたいで、真紀の方に向かって話し始めた。
「でも俺が裕美先輩のことを想うのは自由でしょ?」
「まぁ自由だわねぇ……」
「それに……その人、ココには居ないんでしょ?」
「……そうだけど」
「どこの誰だか知らないけどさぁ、……最近の裕美先輩が元気無いのって、そいつの所為なんじゃないんですか!?」
「ちょっと高山君、何言って……」
「だって裕美先輩、あまり笑ってないでしょ!? 俺だったら……俺なら絶対に、こんな寂しい顔なんてさせない!」
「高山君っ! あ、裕美……」
二人の会話を聞いていられなかった私は、クラリネットのケースを棚に仕舞うと、そのまま準備室から飛び出した。
心の中がグチャグチャになっていて、楽器を吹けるような状態じゃなかった。
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
あの日から高山君は、私にあまり話しかけなくなった。だけど目は、何か言いたげで……。視線を感じる方には、いつも高山君が居る。
言いたいことがあれば言えばいいのに、とは思うけど…なぜか聞きたくない。
『俺が裕美先輩のことを想うのは自由でしょ?』
『その人、ココには居ないんでしょ?』
『裕美先輩が元気無いのって、そいつの所為なんじゃないんですか!?』
『俺なら絶対に、こんな寂しい顔なんてさせない!』
高山君の言葉が頭の中をグルグルと回ってる。
私の好きな人は稔先輩なのに……高山君と稔先輩の顔が、交互に浮かんでくる。
声がソックリなだけで、全く別の人なのに……なんで??
どうしちゃったんだろ、私……。
先輩……会いたいよぉ…