続編

迷子(4)

【千尋】

 いつものカフェ。学と一緒にコーヒーを飲みながら稔を待っていたら、高山さんが駆けてきた。

 その尋常じゃない様子と、手に持っている稔の鞄を見たとき……とても嫌な予感がした。確か今日は、桜花爛漫学園の創立記念日。

―― まさか裕美ちゃんが!?

 

 そしてそれは「瀧川くんの彼女が!」という言葉で、決定的なものとなった。

 

「ごめんなさい、私……」

「あなたに謝ってもらう理由なんて私には無いの。黙っててくれる?」

「千尋!」

 

 俯いてしまった高山さんに、学の目が「言い過ぎだ!」と私を叱る。だけど私には、彼女を気遣ってあげられるような余裕なんてなかった。

 頭の中は、もう……

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 何度も何度も裕美ちゃんの携帯に掛けてみるけれど、繋がらない。 

「ダメだわ」

「電車に乗ったときに電源を切って、そのままかも」

「あり得るわね……」

 学に頷きながら、今度は稔に掛けてみた。

 

「稔、裕美ちゃんは―― 」

『まだ見つかってない』

「だから『見たら泣くよ』って言ったでしょ!? ホントに馬鹿なんだから」

『……だよね。こんなに後悔したのは、生まれて初めてだ……』

「早く見つけて、誤解を解いて安心させてあげなきゃ。落ち込んでる暇なんてないんだからね? あんたにしかできないコトなんだから、……頼むわよ!」

『必ず見つける。……裕美の携帯に繋(つな)がったら、連絡してほしい』

「わかったわ」

 通話終了のボタンを押さえたとき、溜息が出た。

 

「……裕美ちゃん、まだ見つからないって?」

「うん……」

「稔は?」

「相当焦ってる。あんな声、初めて聞いたわ」

「そっか……」

「裕美ちゃんを見つけたら、きちんと話し合わなきゃね。2人が別れちゃうようなことになったら嫌だもん。……もちろん高山さん、あなたにも参加してもらうわよ」

 

 『否』なんて言わせない! という目で、高山さんを睨む。

 

「……わかってるわ。本当にごめんなさい」

「謝る相手が違うでしょ!?」

「…………そうだったわね……」

「おい千尋、落ち着けよ」

「だって学、あまりにも裕美ちゃんが――」

 

 同じクラリネットの2歳下の後輩で、私が初めて勉強を教えた生徒。とても純粋で、怖がりで、努力家で……小さくて可愛い、日本人形みたいな子。

 あの子が受けたショックを思うと、心が痛む。 

 全てが腹立たしい。

 元凶となった高山さんが

 深く考えずに承諾した稔が

 最終的には認めてしまった学が

 説得を諦めてしまった自分自身が

 そして……

 その所為で、負わなくてもいい傷を、あの子に負わせてしまったことが……

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 話を聞かされたとき、もっと反対して―― その理由を稔が納得してくれるまで、きちんと説明すればよかった。

 ツーショット見たときの裕美ちゃんを、容易に想像できていたのに―― 途中で投げやりになって「好きにしたら」なんて、私に似合わないことをしてしまった。

 とても後悔してる。

 私だって謝らなきゃいけない。

 

―― 稔、お願いだから……早く裕美ちゃんを見つけて!

 

2011.01.24. up.

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