続編
【千尋】
いつものカフェ。学と一緒にコーヒーを飲みながら稔を待っていたら、高山さんが駆けてきた。
その尋常じゃない様子と、手に持っている稔の鞄を見たとき……とても嫌な予感がした。確か今日は、桜花爛漫学園の創立記念日。
―― まさか裕美ちゃんが!?
そしてそれは「瀧川くんの彼女が!」という言葉で、決定的なものとなった。
「ごめんなさい、私……」
「あなたに謝ってもらう理由なんて私には無いの。黙っててくれる?」
「千尋!」
俯いてしまった高山さんに、学の目が「言い過ぎだ!」と私を叱る。だけど私には、彼女を気遣ってあげられるような余裕なんてなかった。
頭の中は、もう……
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
何度も何度も裕美ちゃんの携帯に掛けてみるけれど、繋がらない。
「ダメだわ」
「電車に乗ったときに電源を切って、そのままかも」
「あり得るわね……」
学に頷きながら、今度は稔に掛けてみた。
「稔、裕美ちゃんは―― 」
『まだ見つかってない』
「だから『見たら泣くよ』って言ったでしょ!? ホントに馬鹿なんだから」
『……だよね。こんなに後悔したのは、生まれて初めてだ……』
「早く見つけて、誤解を解いて安心させてあげなきゃ。落ち込んでる暇なんてないんだからね? あんたにしかできないコトなんだから、……頼むわよ!」
『必ず見つける。……裕美の携帯に繋(つな)がったら、連絡してほしい』
「わかったわ」
通話終了のボタンを押さえたとき、溜息が出た。
「……裕美ちゃん、まだ見つからないって?」
「うん……」
「稔は?」
「相当焦ってる。あんな声、初めて聞いたわ」
「そっか……」
「裕美ちゃんを見つけたら、きちんと話し合わなきゃね。2人が別れちゃうようなことになったら嫌だもん。……もちろん高山さん、あなたにも参加してもらうわよ」
『否』なんて言わせない! という目で、高山さんを睨む。
「……わかってるわ。本当にごめんなさい」
「謝る相手が違うでしょ!?」
「…………そうだったわね……」
「おい千尋、落ち着けよ」
「だって学、あまりにも裕美ちゃんが――」
同じクラリネットの2歳下の後輩で、私が初めて勉強を教えた生徒。とても純粋で、怖がりで、努力家で……小さくて可愛い、日本人形みたいな子。
あの子が受けたショックを思うと、心が痛む。
全てが腹立たしい。
元凶となった高山さんが
深く考えずに承諾した稔が
最終的には認めてしまった学が
説得を諦めてしまった自分自身が
そして……
その所為で、負わなくてもいい傷を、あの子に負わせてしまったことが……
* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *
話を聞かされたとき、もっと反対して―― その理由を稔が納得してくれるまで、きちんと説明すればよかった。
ツーショット見たときの裕美ちゃんを、容易に想像できていたのに―― 途中で投げやりになって「好きにしたら」なんて、私に似合わないことをしてしまった。
とても後悔してる。
私だって謝らなきゃいけない。
―― 稔、お願いだから……早く裕美ちゃんを見つけて!