迷子（５）

【学】

　僕らは構内のカフェで、ゆったりとコーヒーを飲みながら稔を待っていた。そんないつもの光景が、血相を変えた高山さんの「瀧川くんの彼女が！」という言葉で一変した。

 

「ごめんなさい、私……」

「あなたに謝ってもらう理由なんて私には無いの。黙っててくれる？」

「千尋！」

 

　俯いてしまった高山さんに、僕は目で「言い過ぎだ！」と千尋を叱る。

　千尋が怒るのも無理はないと思う。僕だって同じ気持ちだ。

　でも……

―― こんなときこそ、冷静に対処しなくちゃいけない…

 

　僕は、とにかく心を落ちつかせるのが先決だと思い―― 目を閉じて深呼吸した。

 

* * *　☆　* * *　☆　* * *　☆　* * *

 

　何度も何度も裕美ちゃんの携帯に掛ける千尋。けれども繋がらない。 

「ダメだわ」

「電車に乗ったときに電源を切って、そのままかも」

「あり得るわね……」

 

　僕に頷きながら、今度は稔に掛けたようだが―― 発した言葉から察するに、状況はあまり良くないようで―― 千尋は通話終了と同時に、溜息を吐いた。

 

「……裕美ちゃん、まだ見つからないって？」

「うん……」

「稔は？」

「相当焦ってる。あんな声、初めて聞いたわ」

「そっか……」

―― あの冷静沈着な稔が、焦るほどの状況なのか……

「裕美ちゃんを見つけたら、きちんと話し合わなきゃね。２人が別れちゃうようなことになったら嫌だもん。……もちろん高山さん、あなたにも参加してもらうわよ」

―― それは僕も賛成だ

 

「……わかってるわ。本当にごめんなさい」

「謝る相手が違うでしょ！？」

「…………そうだったわね……」

「おい千尋、落ち着けよ」

「だって学、あまりにも裕美ちゃんが――」

 

　千尋の言いたいことは分かるけど、僕は今度こそ、判断を誤っちゃいけないんだ。

　落ち着いて、よく考えて、最良の方法を導き出さなくちゃ……

 

* * *　☆　* * *　☆　* * *　☆　* * *

 

　あの話を聞いたとき、僕は―― 言葉で理解できないのなら一度くらい苦い経験をしてみればいいんだ、と……そう思ってしまったんだ……。

　こんなことになるのは、はじめから予測できていた。

　それなのに―― あまり賛成できない、と言いながら「まぁ稔が決めたことだから……協力はするけどね」と、その行為を認めてしまった。

　傷つくのは稔だけじゃないのに、いちばん傷ついてしまうのは裕美ちゃんなのに！

　僕は……そんな簡単なことに気付けなかった。

　今、とても後悔している。

 

―― 裕美ちゃん、ごめんね……