とにかく覚えろ(02.香織)
「うそ……」 私の話を聞きながら、持ち帰った名刺を見て…妹が呟いた。
「ねぇカオちゃん…これって…ホントにホント?」 「うん。…私だって信じられない気持ちなんだけど…ホントのことなの」 「だってコレ……この会社のソフト、ウチの学校でも使ってるよ?」 「うそ!…そんなに有名な会社なの!?」 …知らなかった…
「すごいじゃないの!就職先を見つけてくるなんて思わなかったわよ?」 カオちゃん偉い♪、と…妹に肩を叩かれた。 「偉くなんかないってば!…見つけたというよりも…見つけられたというか……」
目を付けられたような気がするんですけど…?
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『(株)T&F』が入っているビルは…パソコン教室のビルの、なんと隣だった! こんな駅前で1つのフロア全部を借りている、というだけでも…この会社の凄さが伺えて…妹の言葉も相まって…何というか……体が震えてきた。
「これは武者震いだから大丈夫!うん!…酉島さんも言ってたじゃないの。簡単な面接だけでOKだから、って…何も心配ない、って…」 そう。 あの人は、私の『やる気』を評価してくれた。 一生懸命に頑張るところを評価してくれた。
でも…社長面接、って緊張する。 酉島さんは「いつもは私が面接するんですよ?でも羽山さんの場合は私が推薦人ですから…」って。 で、『初の』社長面接になったの。
社長さんって、どんな人かなぁ。 やっぱり酉島さんよりも年齢が上…だよね? もし髪の毛が薄くても、絶対に驚いちゃいけないよね!うん、気をつけよう!
気合を入れた私はビルのエレベーターに乗って、3Fのボタンを押した。
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指定された場所に行って、(受付とかは無かったんだけど)…事務の人に案内された部屋で、社長さんを待っていた。 どれくらい時間が過ぎたのかな?と気になって腕時計を確認したら15分過ぎていた。 「忙しい人なんだ…」 わざわざ時間を作ってもらって、悪いことしたかなぁ…と思っていると
バタンッ!
「キャァッ!」 イキナリ扉が開いて男の人が飛び込んできたから、ビックリして叫んじゃった。 「すまん、すまん。打ち合わせが長引いてしまってな…」 固まったままの私に話しかけてくる、この人は…誰!? あなたは?
「え…と…どなたでしょうか?」 「え?君は…羽山香織さん、だよね?」 「はい…そうです…けど…あの…」 「俺は社長の藤堂俊介(とうどう しゅんすけ)。よろしく」 「社長さん!?」
あまりにも驚きすぎた私は…目が真ん丸で、口も開いたままになってるのにも気付かずに…社長を凝視していた。 そして、ふと我に返って… 「すみません!私…とんでもなく失礼なことをしちゃいました。本当にすみません」 穴があったら入りたい! もう一度、時間を戻したい! 真っ赤な顔で、そんなことを思いながら…私は、ひたすら頭を下げていた。
「別にいいよ。久しぶりに面白いものを見せてもらったし?」 なんて余裕たっぷりの笑顔で言われると、メチャメチャ気になります。 …私…そんなに面白い顔、してました?
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「さて、と。今からビジネスの話をしよう。君の履歴書を見せてもらおうか」 「はい」
そして…私の履歴書に目を通した社長は… 「君にはキーパンチ室の、室長補佐をしてもらうから、そのつもりで」 「はい…」 出てきた単語の意味も理解できずに、返事をする私。
「『この子は熱心に勉強するよ♪』と酉島さんも言ってたし…早速キーパンチャーの講習を3日間、受けてもらう。それが終われば、次は…スーパーバイザーの講習を3日間、だ」 「キーパンチャー、って…スーパーバイザー、って何なんですか?」 「意味は、追々分かってくるさ。とにかく講習に行って、覚えてこい」 「はい…」 「では、来週の月曜から来てくれ。9時に、総務の方へ顔を出してくれたらいい」
全く理解できない言葉だらけで、何が何やら分からなかった。でも… その仕事をするために私が採用されたこと そのためには講習を受けないといけないこと 内容は全部覚えないといけないこと …ということは、分かった。
じゃあ……それが出来なかったら……私、もしかして…クビ!? |
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