許容量を超えて

(04.香織)

 

 

私をココ(講習会場)へ案内してくれた課長は、私がお礼を言う間も与えずに…さっさと会社へ戻って行った。

 

   明日からは会社へ寄らず、直接ココへ来て講習を受ける

   会社へ出勤するのは、来週の月曜日から

な〜んて必要事項は、ちゃんと言ってくれたけど…それだけ、だった。

 

俳優かと思うくらいカッコ良くて、155cmの私が見上げるくらいに背か高くて、とてもスーツの似合う課長。

機嫌悪そうに眉間に皺を寄せて、必要最低限の言葉しか話さなくて、怖い課長。

たぶん…とても仕事が出来る人だと思うし…とても厳しい人なんだと思う。

そして…ちょっと優しいところもある人…。

  

「でも…笑うことって、あるのかなぁ」

想像してみたけど、……????……無理だった。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

入ってきた講師の先生は…ミニのスーツが良く似合う、綺麗なお姉さん。(綺麗というよりカッコイイかも♪)

 …私より3歳くらい上…かな?

 

 

「さぁ、始めましょうか?」

とっても素敵な笑顔なんだけど…

   その手に持ってる分厚い物は、何なんですか?

   もしかして…それが教科書なの!?

   まさかそれを全部、覚えろってことじゃないですよね?

   始める、って言われましても…私しか居ないんですけど?

 

「マンツーマンで教えるのって、初めてなのよ? それも6日間続けて、あなたと2人きりなんてね〜」

「えぇ〜ッ!」

「あら、聞いてなかったの? お昼の休憩を挟んで、10時から16時まで。初めの3日間は、キーパンチャーの講習。後の3日間は、スーパーバイザーの講習。ハードスケジュールだけど、頑張りましょうね?」

持ってきた本やら何やらを順に机の上に置きながら、とんでもないことを簡単に仰る先生。

 

ホントに!?

マジですか!?

 

 

「…はい。よろしくお願いします」

先生の目が真剣だったから、私も覚悟を決めて返事をした。

 

 

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「…『人間のすることには間違いがある』という前提の下、同じ原稿を2回入力します。1回目の入力を『エントリー』、2回目の検査入力を『ベリファイ』といいます。『エンター』『ベリー』と略すこともあり……」

「え…この『エンター』って…パソコンの『Enter』キーとは別の意味なんですか?」

「全く別です。………端末機械で入力したデータは全て、ホストコンピューターに……」

 

 

 

先生からは「こんな短期間で意味を理解するのは無理なんだから、とにかく覚えなさい」と、講義の最初に言われたから…なんとか頑張って覚えている。

初めて聞く専門用語は、まだいい。

けど『パソコン教室』で習った単語が出てくると、混乱しちゃって…その度に、先生に質問してしまうの。

 

「あなたは、スーパーバイザーになるのよ? そのために、今はキーパンチャーの勉強をしているの。分かる?コレを全部やってしまわないと、先に進めないわよ」

「はい」

 …そうでした。

 

それからはもう、頭に詰め込んで詰め込んで…………やっと1日目が終了。

6日間やり遂げた頃には…許容量を悠に超えていて、もう…ダウン寸前だった。

 

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